何も知らない転生者さん、エリクサーが存在しない世界で全滅寸前のSランク美少女パーティを助けてしまう

破滅

第1話 転生者さん、エリクサーで人を助ける

 マジでびっくりした。だって、気が付いたら身体が女の子になっていたんだもん。


 最初に違和感に気付いたのは、ポケットに手を入れる動作をしようとしたとき、ひらりとした布きれに手がスカッと空を切ったからだった。


 下を見ると、スカートを履いていた。

 ちょっとでも風が吹けばパンツが見えてしまいそうなほど短い、防備としてはあまりにも心許ない布切れ。それはもうすぐ三十路に差し掛かるおっさんの履物として、あまりにも相応しくない。


 別に三十代男性でも女装趣味の人を否定するつもりはないけど、すね毛も腿毛も処理してない俺のミニスカート姿は流石に見るに堪えないはずだ。

 ……と思ったら、腿もすねもつるつるだった。地黒よりだった俺肌の色も何故か真っ白だ。手も白いし、指毛も腕毛も消えている。


 胸元を見る。赤いリボンの意匠があしらわれた黒いブレザーのような衣装に包まれているそれは、慎ましやかながらに膨らんでいた。試しに揉んでいる。柔らかい。少なくとも男のソレとは大いに違うふわふわとした触り心地。

 曲がりなりにも女の子の胸を揉んでいるのに股間のブツが反応することはない。


 本当に女の子になってしまったようだ……。


 そして、俺にはこの女の子が誰なのか心当たりがあった。


 髪の毛を触ると三つ編みに纏められているおさげがあるし、この制服っぽい衣装。鏡がないので見えないけど多分右目の下にほくろがあるし、ニヤケ面みたいなアヒル口をしているはずだ。


 多分これ、やりこんでいたゲームの自キャラだ。


 女アバターにしたのは、RPGというゲームの性質上操作するキャラが常に画面が映ることになる。男が走っている姿を眺めても何も面白くないので女にした。

 スカートを設定ギリギリまで短くしたのは、階段の段差とかダッシュのモーションでパンツが見えないかと思ったからだ。全年齢対象のゲームなのでパンツは見えなかったけど。


 アバターも服装も同じなら、持ち物も同じだったりするのだろうか。


 肩掛けポーチに手を突っ込んで中を確認してみる。

 手を突っ込むと、頭の中にアイテムリストみたいなものが思い浮かんだ。うわ、すげえ。ゲームで集めて来たポーションとか武器とかアイテムとか、全部入ってそう!


 ゲームだといつでもどこでも取り出せて便利だなって思ってたけど、現実になるとこういう感じになるのか。

 ポーチも衣装もゲーム準拠なら、この身体の性能もそうなのか?


 それなりにやり込んで育成したキャラだからもしそうなら結構とんでもないことだけど――ロケーションが悪そうだ。っていうかここどこだ。


 辺りを見渡すと均された土がずーっと続いて道みたいになっていて、その周りは草原が広がっている。こういうマップどこにでもありそうだけど、イマイチ心当たりがない。現実になったことでゲームとギャップが生じているのか?

 まあでも、道を辿って行けばいつかどっかの街に辿り着くだろう。


 しばらく道を歩くと、人が倒れているのを見つけた。


 遠目で見て鎧に反射した日光でキラキラしていたからなんだろうって思って近づいたら思いっきり人でびっくりした。


「し、死んでる?」


 ちょっと距離を取りながら観察する。


 人数は四人いる。聖騎士団と言った風体の銀の鎧はまるで巨大な鉄球で叩きつけられた見たいな罅が入っていて、ところどころ砕けている。

 割れた鉄仮面の間からは赤色の長髪が見えていて、更に近づくと顔半分が崩壊して真っ赤な血で染まっているけど、生前は整った容姿だったことが伺える女性のようだった。


 他の三人も、よく見ると女性だった。


「あ、あの、い、生きてますかー?」


 少し近づいて見ると、ギョロリと髪色と同じく赤い瞳をこちらに向けて来た。


「あ、あっ、お前。頼みがぁる」


「うわっ」


 正直、喋ると思ってなかったからすごく驚いた。


「―――は、倒した。―りぃ――すは相討ちだった、と」


「えっ? な、なんて?」


「このペンダントを見せれば、通じるはずだ。この道を真っすぐ進んで辿り着く街の、ギルドで、そう伝えてくれ。頼む。」


「え、お断りします」


「えっ? そ、そんなっ。後生だから……」


「それは自分で伝えてください」


 そもそも敵の名称とパーティ名を上手く聞き取れなかったから、伝言のしようもない。


「い、いや、見ての通り私は重傷だ。街までたどり着くことは、もう……」


 話している間にポケットの中からエリクサーを4本取り出し、そのまま全員にふりかけた。


 エリクサーはHPとMPを全回復し、あらゆる状態異常も直す回復アイテムだ。ここで言う状態異常は『しに』状態も含まれる。但し、戦闘中には使えない。

 要するに、戦闘が終わる度に村に戻って仲間を生き返らせたりMPを回復するために宿に泊まる手間を省いてくれる快適便利アイテムだ。


 見るも無残だった死体たちがみるみる人の形を取り戻していく。


「これで、自分たちで帰れますよね?」


「え? ……は?」


 赤髪の女は驚いた様子で動くようになった手をグーパーし、顔や身体をぺたぺたと触っていた。


「信じられん。あれほどの重傷が、こんな一瞬で……。夢でも見ているのか?」


 いや、エリクサー使ったくらいで大袈裟すぎだろ。これ、店売りのポーションと毒消しと聖水を混ぜ合わせるだけで作れるアイテムだぞ。


 って思ったけどエリクサー自体は店売りのアイテムじゃないし、NPC視点だと俺は存在しないアイテムを使ったように見えるのか。


 現実だと全滅したとて目の前が真っ暗になって自動的に教会まで連れていかれるわけでもないだろうし、自力で歩けないほどの重傷を負っていた彼女たちにとって『どこでも教会&宿屋』と言われているエリクサーを使用されたのはかなりの幸運だったと言うことなのだろうか?


 とはいえ、腐るほど在庫のあるエリクサーを4本使ったくらいで恩に着せるほど俺はケチな人間ではない。


「まあ大したものでもないんで。気にしないでください。じゃあ俺はこれで」


「え? お、おい、ちょっと待て。せ、せめて名前だけでも――」


「ふっ、名乗るほどの者でもありませんよ」


 ニヒルに笑って、その場を後にする。

 渋いおっさんの声で言ったつもりだったけど、思ったより高くてびっくりした。

 そう言えば俺、女になってたんだった。じゃあキャー素敵って惚れられる確率皆無じゃん……。男の時でもゼロですよとかいう声は聞こえません。




――――――――――



見切り発車です。

好評そうなら続き書きます。

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2025年12月22日 12:00

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