第2話~二人の前に現れる謎の青年~
荒れ果ててしまい、青々と広がる青空とは反対にまるで乱暴な男達が我が物顔で歩いていてもおかしくないほどに荒廃してしまったサイエンタワールド。…そのサイエンタワールドの中の、エレミーナ大陸…その黒焦げた木々のある場所に、二人の男女の姿があった。
その二人の男女は木々の苗を植え付け。周辺の景色を元の物にに戻そうと努力をしている。
――土壌だけは無事だという事を信じたい。…組織のビルの資料室にあった、毒攻めの様な事にはなっていないでほしい。
かの世界の外国同士の戦い。…大国が敗戦を喫したその戦いには土壌を汚染しかねないような薬剤が使われており。それに寄る物なのか、その土地に住む人々には様々な災いが降りかかった。…そうでないことを願い、クドルスとともにカセリナは土に丁寧に、ていねいに苗を植えていく。
今植えている苗は極端に痩せた土地でも育つことができ、その上病気や多少のどくくらいではびくともしないという植物の苗。…だがしかし、その代わりにかなりの栄養を有していた場合は肥料自棄のような症状を引き起こししおれてしまうという弱点もある代物。
復興できることを願いつつ、苗を植えていくカセリナ達。…いくつかの苗を植え終えた後に。カセリナ達は不思議な感覚を覚える。
一瞬、目の前の光景が白黒に変わったかのようなもの。そしてそこにうつっていたのは。地獄とも思えるような惨状。…森が焼け、見たこともない生き物がもう一方の生き物を残虐に殺して回る、という、一方的な虐殺の光景。…カセリナとクドルスは、その光景を見て一瞬立ち止まった。
――今のは一体。
いったい、今一瞬見た光景は何だというのか。…この森に過去に起こった惨劇だとでもいうのか。突然の出来事に驚くカセリナ。…それを見たのは、クドルスも同じであった。
「見ましたか、今の。…一体、何が起こっているというんでしょうか。」
「…私にもわからないわ…。ただ一つ、判っているのは…あれは、この大陸で起こった出来事、なのだという事。」
分かりきっていたことだけど。実際に見てみるとなぜか心に来るものがある。…歯噛みするカセリナ。…少しして再びカセリナ達の視界にノイズがかかるかのような現象が起こる。
――っ、この現象…なんでこうも毎回…。
顔をしかめるカセリナ。…だが今度のノイズは違った。…ノイズの中に、黒い髪をショートヘアにした一人の男性の姿が見えたのだ。
その男性の印象はといえば大人しそう、といったもの。何事にも受け手に回っていそうなもので。一部の女性からは人気が出そうな出で立ちをしていた。
ノイズのかかる視界の中。カセリナとクドルスはその男性に声をかけることを試みる。
「…あの、すみません。…貴方は一体…。」
丁寧な言葉を使い、問いを投げかけるカセリナ。…その声に聞こえてか、男はカセリナに対して言葉を発する。
『…貴方は、僕のことが見えるんだね。…僕は黒龍。…此処とは別の世界で、サイエンスクリーチャー達の面倒を見る牧場の主として働いていたんだ。』
「黒龍さん、ですか…。では黒龍さん。なぜ、この様な所に…?」
男の名を聞いてもなお、質問を投げかけるカセリナ。…その様子に面食らったのか。男は鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情を浮かべる。
『…。ごめん、質問に質問を返すようで悪いんだけど、僕の姿を見て、何も思わないの?』
「いえ、何処にも不審な点はありませんが…。」
『…そうか。そうだよね。…僕はね。…かつてミスラウ軍というところで、死刑の判決を受け…そして死んでいった存在なんだ。…だけど、僕にはその罪に…覚えはない。何度も控訴はしたけど、それはすべて棄却された。…いや、棄却されたって扱えばいいのかな…。とにかく抗議はしたけど受け入れられなかったんだ。』
男が口にしたのは、驚くべき男の過去。…なんとその男は、いわれの無い罪で裁判を起こされた上にその裁判で死刑の判決を下された、というのだ。…その男からの言葉を聞いて、次にクドルスが問いを投げかける。
「…弁護士とかはいなかったんですか?…その弁護士の力で」
弁護士さえいれば何とかなっただろう。…そんな希望を抱き、投げかけたクドルスの問い。…しかして、そのクドルスの希望は無残にも打ち砕かれる。…男が首を横に振ったがためだ。
『…ミスラウ軍で行われた裁判では、弁護士なんて物は付かなかった。何の物的証拠もなしに僕達は法廷へと行かされて、一方的な判決を受けた。…結果として、僕は…。何の反論もできぬまま死刑判決を受け、そしてその刑は執行されたんだ。』
「そんな…そんな理不尽が通るわけ…!」
『…。僕も今までは、そんなことは有り得ないと思っていたんだよ…っ!だというのに、それが通ってしまったんだ…。残念ながら…!僕がいた世界では、公平な裁判が行われていたから…だというのに…!』
悔しげな表情を浮かべる男性。…その男性の姿を見て、クドルスとカセリナ、二人は何も言えなくなってしまう。
死刑にされた男の未練が残るサイエンタワールド。…そこで起こっていたという、虐殺の実態は。
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