第3話 ヘンテコ回復剣士のヘンテコ仲間

 ダンジョンとは資源と宝の宝庫だ。


 ダンジョンは世界に無数に存在し、その様式も様々だ。

 地獄の底まで案内しそうな洞窟もあれば、天界まで届きそうな無限に伸びる塔なんてのも存在する。

 暗い洞窟の先に凍り付いた氷原が広がっていたり、かと思えば灼熱の太陽が輝く砂漠に出たり。


 そんなダンジョンには、人類の生活を広く支える様々な魔鉱石が生成される。

 さらには、伝説級レジェンダリーの武具やアイテムなどの宝も生成される。


 そこには魔物――モンスターも生成される。


 多くは魔法、魔力によって環境変化が起きているらしく、トラップなんかも再生成されたりする危険な場所。それがダンジョン。

 人々の生活と切っても切れない関係であり、夢が詰まった場所。


 そんな場所を身一つで調査探検するのが、俺達冒険者、というわけだ。


「そろそろ大部屋に出る。角からの不意打ちには気をつけよう」

「オッケー。てか詳しいね。結構このダンジョンで探索繰り返してる感じ?」

「ああ。色々転々とはしてきたが、ここはもう四年くらいだな」


 言いながら、俺達は大部屋へと出た。

 うーん……今日は不作かもな。


「えーと、ザン……四年ここ通ってるって言ってたよね?」

「ああ」

「ずっとソロで?」

「そうだが……ああそういうことか、すまんな。辺鄙へんぴでショボいダンジョンだ、若者にはちょっと物足りないか」


 リュッカは周囲を取り囲むアンデッドを見てこう言った。


「いや、どう見ても多すぎるでしょ! モンスターハウスじゃん!」


 どうも、俺が思った印象とは違うらしい。

 苔むした石畳の上にはアンデッド達がたむろしていて、俺達が部屋に入るやいなや、生者の臭いを嗅ぎつけたのか一斉にこちらを見ていた。


 その数は二七体。

 このエリアでは不作の方だった。


「ああでも安心してくれ。リポップとは別に、こいつらちょいちょい復活するから、人数以上に楽しめるぞ」

「その上復活もするの……アンデッドって奴は、もう……!」

「しかも何度復活しようとドロップ判定は一回だけだ。アンデッド狩りが不人気なのも頷けるな、ハハ」

「~~~、アンデッドって奴は、もうっ!!」


 リュッカが悶えていると、死者達がこちらにノロノロと向かってくる。


「下がれリュッカ。敵はフレッシュゾンビとマッドスケルトン。奴らは意外と俊敏な動きをするし、自らを省みないからパワーもある」

「大丈夫、もう油断はしない。リベンジしてやるんだから」

「……いやあのリュッカ、下がれと言ったんだが。君は魔法使いなんだ、後方から攻撃してくれればいいんだが……」


 リュッカはなぜか俺より前に出る。

 杖を持った魔法使いが、回復剣士の俺より前に出たのだ。


「……そうだね。魔法使いは後ろに下がるのが普通」


 リュッカは杖を握りしめる。

 魔法を使うつもりか? だがなぜ前衛に――


「でも私、普通の魔法使いじゃないから」


 隙ありと見たのだろうか。一体のマッドスケルトンがリュッカに急襲を仕掛けた。

 つぶさに敵を観察していた俺がカウンターで切り裂こうとしたが。


「ファイヤー・!」


 それよりも速く。旋風のように。

 魔法使いとは思えないスピードで、リュッカは敵を拳で殴り倒し、瞬間、敵が炎に包まれるのだった。


「な、なんだ……? リュッカ、君は武闘家なのか? だが今のは……魔法! 魔力を感じたぞっ」

「うん。ごめん、ザン。さっきは嘘ついてた。私、正確には魔法使いじゃないの」


 リュッカは左手に杖を持ち、右手で拳を握って言う。


「私の職業は魔法。ぶん殴らないと魔法が起動しない、変態魔法使いなのっ!」


 魔法拳士――な、なんだそれは!

 魔法剣士は知っている。珍しい職業ではないし、ありふれた能力。俺も回復剣士じゃなくてそっちが良かったと何度も思った。


 だが拳士って。

 魔法剣士は、魔法戦士マジックファイターとも呼ばれたりするが。

 殴ったってことは、魔法拳士マジックファイターの方ってことでいいんだよな?


 なんだその変な組み合わせは!

 ……人のこと言えないけども。


「わ、分かったリュッカ、殴る必要があるということは、前衛タイプってことでいいんだな?」

「そうだよ! 魔法使いなのにね! どーぞ笑ってください!」


 彼女は顔を赤くしていた。

 炎のせいじゃない、どうも自分の能力がこっ恥ずかしいらしい。

 ――気持ち、分かるぞ。


「杖を持っているということは、杖でもぶん殴れば起動するのか?」

「こ、これは――魔法使いアピールのただの小道具です! ポイっ!」

「捨てたぁ!?」


 リュッカは火を噴くほどに顔真っ赤だ。

 小道具持ち歩いているなんて、確かに恥ずかしいかもな……

 しかし、魔法使いなのに杖捨てる、か。まぁ奥義とか使う際はそういう魔法使いもいそうなものだが――


「さぁ、さっきのリベンジだよ! 火遊びしたい奴からかかってこい!」


 メリケンサックを両手にはめる魔法使いは初めて見たぞ!


 リュッカはごそごそとマジックバックからシルバーのメリケンサックを取り出すと、両手にはめて、ファイティングポーズを取るのだった。

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次の更新予定

2025年12月30日 18:00 毎日 18:10

おっさんは回復剣士 ~敵も味方もぶった斬って回復する俺は、最強のアンデッドキラーとなってダンジョンを攻略する~ じょりー @zyory

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