勇者と魔王の結婚指輪 〜10m離れると殺し合う夫婦〜
リスキー・シルバーロ
プロローグ
第1話 封印し合う勇者と魔王
――魔界の深淵、闇に覆われた魔王城。
勇者レイは、傷だらけになった体で魔王ルルノと対峙していた。
極限魔法をぶつけ合い、何百もの剣戟も交わし、何度目かも分からない死闘を繰り返した。
「くっ、こうなったら、最後の、切り札、だ……ッ!」
肩で息をし、懐から黄金の指輪を取り出す。
国王から預かった切り札【光の指輪】。迷わず薬指に嵌める。
(魔王が弱った今なら、こいつの力を封印できるはずだ)
魔王を見据える。今まで何度も戦った魔族の少女。レイと同じように息を切らし、息を吸うたび長い白銀の髪が揺れる。真紅の瞳は、人間への憎しみで曇っている。
「ま、まさか私が、これを使う、ことに、なろうとは、なぁ!」
かと思えば、魔王ルルノも漆黒のドレスの胸元からソレを取り出した。光の指輪と対をなす黒い指輪。ルルノの薬指が不吉な光を発する。
「なっ⁉︎ お前もソレ持ってるの⁉︎」
焦りが顔に浮かぶ。額に汗が滲む。
「これは魔王に代々受け継がれてきた【闇の指輪】だ! お前のは私のパクり、パクりだ!」
お互い驚き、しかし指輪を相手に構える。こうなったらどちらの指輪が勝つかに、両種族の命運が賭けられた。
「「ウオオオオオオッ!」」
光と闇。二つの指輪から放たれる封印魔法。
眩しくて、暗すぎて何も見えない。二人の雄叫びだけが謁見の間に響き渡る。
そして――。
「うわああああ⁉︎」「きゃあああああ⁉︎」
両者の悲鳴がこだまする。
二つの光が徐々に薄れる。レイの体から力が、魔力が全て抜け落ち、途方もない脱力感に襲われる。
(……ああ、ダメだ……俺は、負けた、のか……)
聖なる鎧、勇者の剣が重い。儚い力を振り絞るが、自分の装備に潰されそうだ。
しかしよく見ると、魔王もわなわなと体を震わせていた。
「わ、私の力が……魔力が……そんな……」
「あれ?」
「……ん?」
互いを眺め、少しの沈黙。魔王から何の魔力も感じない。ただの魔族の女の子。封印は成功したらしい。
「な、何だ貴様! そんな目で私を見るなバカ!」
「え、なんかごめん」
頭が妙にスッキリしている。憎いはず。人類の敵だと言い聞かされてきた。何度もぶつかり、魔王の情報を調べ尽くした。
――なのに、憎しみとは真逆の感情が湧いてくる。
「なあ、魔王」
「なんだ。気安く呼ぶな勇者」
魔王の顔つきもおかしい。さっきまで殺気だっていたのに、どこか儚く見える。可憐で華奢な姿。ドキドキしてきた。
「俺たち、なんで憎み合ってたんだ?」
「そ、それはお前たち人間が攻めてくるから」
「うん、それはごめん」
気まずい沈黙。だけどやっぱり憎くない。
(まさか指輪のせい? これを外せば……)
指に力を込める。ビクともしない。呪いのアイテムなんだろうか。
「勇者……いや、レイよ」
魔王がソワソワした様子で話しかけてきた。
「何だよ、ルルノ」
なんか魔王と呼びたくない。自分の変化に混乱する。
「……魔族と人間の戦争……終わりにしないか?」
「……うん、めっちゃ賛成」
両種族の代表。自分たちが和平を結べば戦争終了だろう。今までこんな考え思い付かなかった。それが何より不思議でならない。
「それとさ」
「うん」
ルルノが何を言おうとしているかも分かってしまう。指輪を通して、彼女の気持ちが伝わってくる。
――それに何より、今までずっと秘めていた想いを、強く自覚してしまった。
「多分この封印、術者が近くにいないと効果が弱まるタイプだ。……だから」
「ちょい待った。こういうのは男の俺から言わせてくれ」
「う、うむ」
距離を詰める。年下にしか見えない少女。ほんのり染まった上目遣い。自分の気持ちも伝わっているだろう。
(……そうか……俺、こいつのことずっと……)
自覚した。過去一番の勇気を振り絞る。
「俺たち、結婚しないか? ほ、ほら、平和の象徴的な感じで」
あくまで平和のため。そう銘打ってプロポーズ。狂ってるかもしれないが、いたって本気だ。
ルルノは一瞬狼狽し、ほんのりから耳まで真っ赤になって俯いた。可愛くて爆散しそうだ。
「ほ、本気か? 私は魔族で、レイは人間なのに……」
当然の反応。だが逃げる素ぶりはない。
「本気だ。ルルノと結婚したい」
手を取る。熱すぎる手。こんなに愛おしい。
ルルノは覚悟を決めたように、ギュッと抱きついてきた。
「……よろしくお願い、します」
「……こちら、こそ」
こうして長きに渡った戦争はアッサリ終結した。
光と闇。二つの指輪が結婚指輪になろうとは、誰も想像すらしていなかった――。
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