第3話 パジャマの女子高生はレモネードを片手に地球の焦土化を説く

 とんでもないことを言う娘だ。しかし、私のどこかがこの娘を楽しんでいる。

 彼女は、3000年の技術差がある相手とは、侵略慣れした相手とは、正面切っての向き合う戦いにはならないという。さらに、先方は宇宙から来るため、運動エネルギー的にも位置エネルギー的にも有利だという。だから、戦いとしては人類にとって不利極まりない。そこで、相手が攻め込んでくるはるか前に、地球の焦土化を始めるしか対応策はないという。

 なんてことだ!

「それにしても、気が滅入る未来だな。他に人類への救いはないのか?」

 娘は、無表情を貫こうとしたが、ちらりと口を結ぶのがわかる。

 ほほえましい。この娘は本当にかわいらしい。

「何かあるんだな?あるんだな?」

「あんまり聞いてもいいことないのよ」

 彼女は首をかしげ、身をよじる。この娘は、こういうしぐさが男性にどういう気持ちを引き起こすか、考えた方がよいな。語弊があるので私は教えたくはないな。

「あるんだったら教えてくれ」

 彼女はしぶしぶ口を開く。

「ルルには、一つ大きな特徴があるの。彼らは誘導兵器をわないの。逆に言えば、誘導兵器を使えるのは人類の強みよ」

「誘導兵器?ミサイルとか?ドローンとかか?」

 あいまいにうなづく。

「それら全般。あなたが思うものよりずっと単純なものも含まれているかも。ただ、過度の期待をしてほしくはないわ。彼らのエネルギー兵器は強力だから」

「なぜ、地球の誘導兵器の方が優れているのだ?彼らの方が技術が相当進んでいるのだろう?」

 娘は肩をすくめる。大人になり切れない姿かたちが、大人のようなしぐさをすることがむず痒い。背伸びをしているようにも見える。ただ、友人のウクライナ人の娘と比べて、青リンゴのような清浄さを感じるのはなぜなのだろう。

「人類の科学技術力がすぐれているのではないわ。誘導兵器を、ルルたちは使わないというだけ」

「なぜだ?」

「自律的に動く機械には幅広く人権のようなものが認められている社会なので、自殺攻撃にあたる誘導兵器みたいなもの全般について使用されることが禁止されているのよ」

「不思議な世界だな。機械に人権?機械が正しい判断をするわけでもなく、人類が導いてやらねばならず、モノに過ぎないというのに……」

 言っていてふと気づいた。

「なるほど、今私が言ったことは、二百年前などにアメリカ南部で白人が黒人たちにかけた言葉に近いのか。社会が発展すると、より広いものに人権やら権利が認められていくが、その先にあるものの一つか」

ああ、またしても亡き妻が言っていたことを思い出した。

現時点も、未来から見れば過去の一瞬に過ぎないのだ。そしてその未来も、さらに先の未来から見れば過去。どの時代のどの最新の思想であっても、未来から見れば時代遅れの思想。現代の最高の思想家がくさす古臭い思想と何ら変わりなく時代遅れ。結局、この点に思い至れば、古臭い思想に拘泥する連中のことも大して悪く思えない。仮に私が一歩先に進んだ思想を理解しているとしても、十歩進んだ未来から見ればたいしてかわらないのだから、私が偉そうに思想を説くのは恥ずかしいだけだ。

うむ。私自身も気づかず実践していることではあった。少し安心する。

「わかってくれるの?あたしもそう思う」

 娘は笑う。

「何かうれしいか?」

「あなたのその柔軟さ、新しいことを信じる強さ、それがうれしい」

 そう、私はこの娘を本当に信じ始めた。

「なぜお嬢さんなのだ」

 またしても無防備に、私に対してきょとんとした表情を見せる。娘もこれくらい素直でいてくれたらかわいいのに。昔は可愛かったのに。彼女の様子は反抗期を抜けた娘の様子を想像させるからだろうか、娘がそろそろ反抗期を抜けてくるような予感がわいてくる。

「笑わないで聞いてくれる?」

 これ以上、おかしなことがあるだろうか?私はうなずく。

「そういう……その……通信を受けたのよ。頭に直接」

 なんと、電波系!

「君自身が騙されていると感じたことはないのか」

「そんなことは問題ではないわ。あたし、このロジック正しいと判断できるもの」

 その言葉に、一瞬の迷いがなかったか。

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