第3話 ……あ。


「虎田ちゃん的にどう? オレ……とかサ?」

「…………へぇ、あぁ」

「ケッコーアリな部類に入る男だと思うんだけどナー?」

「…………はぁ、へぇ」

「……え、ため息の中間? どゆこと?(大困惑)」


 名取はNTR漫画のデカい不良の先輩と言われるだけあって、その見た目通り女性経験が豊富。それ故、自信もあった。


「デートだけでもいいしさ。ってか連絡先教えてよ」

「イヤです」

「そこはハッキリしてんかい」

「イヤなんで」

「ね、念押しぃ……」


 しかし、玲子は名取や取り巻きにビビることも、取り繕うことも決してしない。


 名取先輩とほぼ同じ身長、野生動物のような威圧感。

 肝が据わりまくったおっっきい女。虎田玲子である。


「えー、じゃあ友達からとか」

「イヤです」

「え、ナニ友達いらない的な? ガチの一匹狼ちゃんなん? えーかわいいじゃん」

「…………まぁ、はぁ」

「そんなこと言わないでオレと――」

「イヤです」

「……オレ、ケッコーガチで虎田ちゃんのこと好きっていうか」

「…………あぁ、へぇ」

「何この法則性わからんシステム」


 いつもブイブイ言わせている名取だからこそ、取り巻きからの「全然ダメじゃん」「だっしぇえー」な視線も相まって、全く靡かない玲子に狂わされる調子。


「じゃ」


 玲子が立ち去ろうとして――



「ま、待てよ!!!!!」



 咄嗟に玲子の肩を掴む。


 顔を歪ませる玲子。

 そこに駆け付けるのはもちろん――アイツしかいない。






「俺のに何してんだ」






 名取の手を払う温太郎。

 温太郎もまた、局所的に肝が据わっていた。


「谷……」

「な、何って、オレはただ虎田ちゃんと……」

「…………ダメだ……抑えられない……」

「……え?」

「……あのなぁ……よく聞けよ……よく! 聞けよ!!!」

「え……」

「いいかNTR!!!!」

「…………は、はい」

「NTR漫画のデカい不良の先輩はなぁ! 主人公イジメてるか、ヒロインの弱み握るかして! 学校で言うところの裏門から入るんだよ……」

「…………え、裏門?」

「それか理科準備室のぉ……開けておいた窓から……入り込むんだよぉ……きったねぇんだよ!!!」

「……ごめん熱量の差がすごい」

「でもなぁ! 今のお前はめっちゃ正門なんだよ……名が体を超しちゃってんだよ!!!!! そんでもって、ここは……」



「確定エッチイベントが、人間的な魅力もねぇヤツにある種無差別に降り注ぐような、クソしょうも羨ましいエロ漫画の世界じゃねぇッ!!! 〇ね!!!!」



 玲子の手を引いて、その場を後にする温太郎。


「……たとえ微妙」

「まずそれ?」


 一言腐す玲子だったが、本人も気づかないうちに鼓動は速まっていて、


「…………オレ、今ナニ言われた?」

「…………さ、さぁ?」


 名取、勢いで敗退。










 帰り道、コンビニ前。


「……」

「……」

「……最近NTRな漫画見た?」

「見てない」

「にしては具体的なヘイトだったけど」

「……友達、とかに聞いて」

「友達に“とか”ってないと思うけど」

「…………うるさい」

「ひど」


 温太郎のとなりでミルクアイスバーを食べる玲子。

 温太郎は午前でも飲んでいいパックのティーをストローでごくりと飲む。


「あのさ」

「なに」

「……名取先輩とそういう展開無くて残念、とか……ない、よな……?」

「…………は?」

「だ、だよな。よくわかった」


 ほっと胸をなでおろす。

 これで可能性の一つ、玲子の貞操観念がバグってる説が無くなったから。


「…………」

「……な、なんだよ」

「いや、別に」


 温太郎から視線をそらす、玲子。


「あ、いるか?」


 温太郎の買った飲み物を必ず一口は飲む玲子。

 今の視線はお決まりのヤツだと思ったのだが……。



「…………いや、いい」



「……?」










 かくして、何の変哲もない日常からすれば少し大きなイベントを消化し。

 

 いつもより早く家へ帰った玲子。

 温太郎はというと……。



「なんでだ……なんで胸糞なのに見てしまうんだ……NTR漫画を……!!!」



 見ることを促進する、SNSに流れる明らかに多いエッチな投稿。

 

「政府が秘密裏に画策した、アホな少子化対策か……」


 温太郎はいつもより、間違いなくムラついていた。

 常に変なお預けをくらっていた。


 そして――物語の神様に、愛されていた。


「谷ー。私の髪留め……あ」


 温太郎の部屋の扉を開け、硬直する玲子。


 ……温太郎、オ〇ニーしてた。

 オナ〇ー、してた。してた……。




















「…………あ」

「…………あ」



 …………あ。

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