幼なじみがおっっきな高校生になっても一緒におフロ入るのが普通だと思っててヤバい
本町かまくら
第1話 だだだッ
何の変哲もない、いつも通りの朝。
「ふはぁ~……」
ガチャリ、とリビングのドアが開く。
「はよー」
「おー」
温太郎に一瞥もくれず、迷いのない足取りで冷蔵庫を開け、コップに麦茶を注ぐ。
やけに瑞々しい、くぅおぉ~って感じの音。
「寝起きでしょ」
「おー」
「は?」
「え?」
「……今日、谷が朝ご飯作る係」
「…………あ」
「………………レバーブロー二発」
「内側から崩そうとするのやめて」
「……はぁ」
すでに支度を済ませた幼なじみが、視線で「着替えてこい」と促してくる。
セミロングの青っぽい黒髪に、クールな顔立ち。色白。
高一にも関わらずモデル並みに抜群のスタイル。
温太郎より高い、180ちょいある身長もアレも……まぁ、ソレも。大体おっっきい。
相も変わらず、美人とか美少女とか、その辺の言葉に全部引っ掛かりそうな見た目の幼なじみだ。
「…………」
「……なに」
「……いや、なんも」
何の変哲もない、いつも通りの朝。普通の、朝。
「忘れ物ないよな?」
「……あー」
「なんだよ」
「強いて言えば、睡眠時間?」
「玲子……お前また夜更かしか」
「昨日一緒に見た映画の考察見てたら、いつの間に」
「ったく…………え、余命モノで考察?」
二人、揃って家を出る。
とはいえ、一緒に暮らしているわけじゃない。
「鍵閉めた?」
「閉めたよ、合鍵で」
「無くすなよ?」
「……んー」
「間が怖いな」
玲子――
温太郎――
つまりふたりは、同じマンションのおとなりさん。
「そういえば谷の両親からメール来たよ。ミラノから」
「へー……え、俺来てないんだけど」
「あっちの生活にも慣れてきたってさ」
「高校上がって一人暮らしになった息子への心配はゼロですか……」
「私がいるからでしょ」
「まーあの二人、玲子に絶大な信頼寄せてるからなぁ」
「まーね」
わざとらしくドヤ顔をして見せる玲子。
とはいえ表情は全然豊かじゃなくて、パッと見サバサバしてそうなのも変わりなく。
「虎田さんってなんか怖いよね……たぶん私たちと仲よくする気なんて一ミリもないんだろうな……」
と初対面、結構な確率で言われるタイプ。
「あー……まぁ、得手不得手あるから。人には」
指摘すると毎回言うが、未だに腑に落ちていない。
「そういや、玲子の両親からもメール来たな」
「へー、なんて?」
「また一か月くらい家空けるって」
「……それ、なんで娘本人に言わないわけ?」
「俺がいるからだろ」
「…………いや納得できるか」
エレベーターに乗り、そのままエントランスを抜ける。
「まぶしっ」
五月、ギリ春の日差し。
家から高校まで、徒歩十分。
特に変わったこともなく、いつも通り到着。
同じ教室に入り、それぞれの席に座る。
それから三限目まで、つつがなく時は流れ。
「んー、ぼちぼち」
「人のジュースをぼちぼちって言うな」
「ぼちぼちだなぁ」
「ぼちぼちって言うな」
昼休み、温太郎が買ったジュースを玲子が飲む謎のお決まりもきちんと消化し、午後の授業も終えて。
「谷ー帰るよー」
「おー今行く」
帰宅部のふたりは特に学校にたむろすることもなく、真っすぐ帰宅する。
それから、朝メシ担当をすっぽかした代わりに夜メシを温太郎が作り、ふたりで覚えてもいないような会話をしながら腹を膨らませ。
生まれたときから一緒で、今年で十六年目の幼なじみとしては普通の、何の変哲もない日常。
そう。何の変哲もない、普通の――
「谷、一緒におフロ入るよー」
・・・……・・・……・・・。
「え、入るよー」
おがじいッ!!!!!!!!!!!!!!
なんかすっげぇ当たり前みたいな顔してるけど、すっっげぇおかしいッ!!!!!!!!
こっちがおかしいのではなく、普通がおかしいのではなく!!!
天地がひっくり返ってもなお、間違いなく疑いようもなく付け入る隙もなくおかしいッ!!!!
「……えなに、恥ずかしいの?」
「いやいや、恥ずかしいっていうか……」
「今さら?」
「今さらっていうか……あの、俺たちって、今……何?」
「……生きている?」
「深めの話じゃなくて。あー……小学生とか! 中学生とかで言うと……何?」
「…………高校生?」
「正解!」
「早く入んない? さむい」
「不正解ッ!!!!」
「は?」
現在、脱衣所前。
今日もこの時間がやってきた。
「高校生だからなに?」
「高校生だよな?」
「昔から入ってたじゃん」
「昔は! 入ってたよ」
「幼なじみでしょ」
「幼なじみだな」
「……え、なに変?」
「普通ではないかと」
「普通じゃないわ……谷が」
「俺が普通だよ!」
「えー……意味わかんないんだけど」
意味わかんないんだけどッ……!!!!!!!
「…………ってことがあって。それも……最近、結構」
「……おもしろ」
「おもしろって言うな」
中庭のベンチに座り、思わず頭を抱える温太郎。
「やー、やっぱウケるねー。タローもトラ子も」
「ウケねぇよ」
ケラケラ楽しそうに笑っている、となりのちょいギャル。
制服をかなり着崩していて、見た目から陽キャのオーラを溢れんばかりに醸し出していて。
校則をぶち破った、明るいウェーブのかかった茶髪がゆらんと揺れる。
「志津香……俺は本気なんだよ」
「……ウケる」
「本気はウケねぇ!!!!」
温太郎と玲子の中学からの友だちだ。(備考:ゴリゴリの恋愛体質)
「ま、お堅いタローなら悩むよねー。こないだも? クラスの子がタローのこと大人びてて……まぁ、イイ感じ? みたいなこと言ってたし」
「ニュアンスでだいぶ違うぞ」
「……それなー」
「めんどくなるな。お前が始めた物語だろ」
「…………ならアタシが終わらす物語じゃん」
「お前じゃなくてよかった」
と言いつつ、はぁとため息を吐く。
「もう俺たち高校生なんだぞ。小学生ならまだしも、さすがに今は……」
「なるほどねー……それで?」
「それで……」
「一番の本音、言ってみなよ」
「……」
「ただ悩んでるってワケじゃないんでしょ?」
温太郎が、高校生なのに一緒にお風呂入るのが普通だと思ってる幼なじみに対して、一番思ってること。この状況で強く思ってること。
「正直…………ぶっちゃけた話…………」
それは……。
「玲子とエッチなことがしたくてたまんねぇんだッ……!!!!!!!」
「ぶっちゃけぇー」
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