第3話赤く燃え、狂気に呑まれ朱に染まる


 既に赤備えは八十に満たないが一部の兵達が合流し三百程の手勢を率いて山県昌景は土煙の上がる方向に目を向ける。


 昌景は刀を抜き兵達を鼓舞する。


 「既に味方の殆どは撤退しつつある!ならばワシ等のやる事は武田の武威を見せ、この敗戦の恥辱を注ごうでないか!!」


 「ウオオオ!!」


 兵達は雄叫び上げ答えた。もはや敗北しこのまま逃げたところで追撃隊に狩られてしまうならば武士としてここで盛大に散ってしまう腹づもりだ。


 「全軍突撃!!」


 三百の小勢の中でまず足軽隊が敵へと突っ込みすぐ後ろから昌景率いる赤備え騎馬隊が突撃していく。


 まさか武田勢が突っ込んでくるとは思っていなかった織田徳川追撃部隊の突出した部隊は思わぬ反撃にあい損害を受けてしまう。


 狼狽えたところに武田の足軽隊による槍による突撃さらにそこからの打刀による兜割や組み手からの投げ落しなどを受けてしまう。


 助けに入ろうと横槍を入れようとした者を昌景率いる赤備え隊が横切り邪魔をしその間に足軽隊が仕留めていくという連携で織田徳川は被害を増やしていく。


 その様子は本陣から動かず追撃を指示した信長の元へ伝令が伝える。


 「そうか……あの劣勢の中でまだ抗うものがいるとは」


 「いかがないますか?」


 「一番近い部隊は誰だ?」


 信長の問いに兵達は陣の配置と追撃でた部隊から考えて大まかな予測で答える。


 「徳川殿の隊が近いと思われます」


 「そうか…これも運命か。家康殿に伝えよ」


 スッと立ち上がり信長は伝令の兵に冷徹なひとみを向け。


 「赤備えの命運措置が引導を渡せと」



 山県隊の勢いは止まるどころか勢いを増し続けていた。


 刀が折れれば死体から奪いを繰り返しさらには目潰しや拳での殴打や脇差で首を掻き切るなどや鎧の薄いところを滅多刺しによる獣ような戦ぶりで敵兵を斬り倒しつづけている。

 

 中には鞘で殴打し兜を剥がし原型がわからなくなるほど殴り首の骨が折れるまで鞘でなぐりつづけたり切り掛かったりで彼等は浴びるように鮮血を浴びて次第に鎧は黒から赤に染まりつつある。


 ことに至って昌景自身も馬上からの太刀による滅多刺しや薙ぎ払いより血を浴びつつ、さらに反撃による槍を掴みそのまま奪い取り馬から降りて敵に突き刺したまま横薙ぎに奮い周囲の兵を一掃しまた馬に乗るといった鬼武者振りを発揮し。


 「この昌景を討ち取るものはおるかぁ!!」と叫び槍が折れるまで敵兵を薙ぎ倒し馬を敵にぶつけ吹き飛ばす。


 彼の狂気な活躍が次第に兵達にも伝染しさらに士気が上がり兵達は疲れつつも勢いが衰えず敵に向かっていく。


 その様な地獄から現れ獲物を捕らえにきた赤鬼に見え始め次第に織田徳川兵は恐怖に飲まれ始める。


 中には震え始め逃げようとするものがいるがそういった者から標的にされ犠牲者を増やしていく。


 「狼狽えるな!敵は小勢だ!恐るな囲んでの一斉に切り掛かれ!!」


 懸命に叫ぶ足軽大将達だが一度怖気付き始めた兵士達には届かず次第に追い詰められていく。


 「たかが数百の兵如きに……この敗戦した中で何故ここまで戦える」


 ザッ、ザッとゆっくりと血に濡れた赤鬼達が迫り始める。次の獲物を捕まえ殺す為に彼等は止まる事を知らない。既に狂気に呑まれ赤く染まっていない鎧を見ると襲い始める獣へと変貌し始める。


 その中で鬼の頭領たる男が叫ぶ。


 「このまま押し返せ!!」


 轟く号令と共に鬼達は歩み蹂躙し始める。


 昌景も続いて大暴れする為に駆けようとした時。


 ドォンと轟音が鳴り響くと同時に昌景の周りの鬼達が退治されていく。


 その中で昌景も両腕を撃ち抜かれ馬から落ちてしまう。


 むくりと起き上がりだらんとした両手を見てすぐに撃たれた方向に目を向ける。


 そこには葵の家紋の旗指物が無数にあり鉄砲隊従えた、絶対的な優位な状況であるはずなのに余裕のない顔を見せる徳川家康の姿があった。


 


 

 

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