第6話 もう1人の男
折角の命乞いの機会を失った自分は生き残る可能性を探すため、更なる悪あがきを続ける。
「ま、まあ、まだ気が早いんじゃないですか?お互いの名前も知らないくらいじゃあないですか……」
「盗賊の『グノー』、魔法使いの女が『ナーヤ』、木こりの『デルシンキ』、それで俺がワーウルフの『ガァル』だ。これで満足か?」
「ぐっ……」
もう少し時間を稼げるかと思っていたが、そろそろ限界が近づいてきた。
他に取り付くシマがないか辺りを見渡すと、同じように捕まっている青年がいたことを思い出した。
「そうだ!そういえばまだ1人こいつがいるじゃないですか!こいつにも話を聞きましょうよ!」
手足が縛られたまま、芋虫のように身体をうねらせて青年に近づく。
「おい、起きろ!このままじゃ殺されるぞ!」
青年の肩のあたりを頭で叩き、衝撃を与えると彼の目が開いた。
「……え?殺される……?」
「やっと起きたか!そうだ、このままだと本当に殺されそうなんだ。だからお前からも何か……」
「ころされるのぉおおぉお!!???」
ブチッ、と青年の手元から音がした。
彼の手元にもしっかり結ばれていたはずの縄が千切れている。
「「うぉぉぉおぉおぉぉぉ!??」」
驚いた勢いで足元の縄も引き裂いた。
「お前何なんだよ……」
「殺されると思ったら急に頭の中に……あ、あと俺剣道部だったんで!?」
本人も無意識なのは確からしい。
「とりあえず縄ほどくんで逃げてください!!」
「あ、ありがとう!?」
周りが混迷を極める中、同じように手元で括られていた自分の縄も引き裂く。
即座に周りを見渡し、彼は山賊の女の方に向かって走り出した。
「うぉおおおおぉぉぉぉ!?」
山賊の女が持っていた杖を力づくで奪い、2-3mほど突き飛ばして木に衝突させた。
「ナーヤ!?」
奪った杖を剣道の基本姿勢のように構え、残った3人の山賊たちに相対する。
「覚悟してください……こう見えて俺、三段ですから……!?」
どのくらい凄いかは分からないが、彼が強そうなのは分かる。
「逃げろ、って足に縄ついたままじゃねぇか……」
結局自分もすぐには逃げられないことを悟り、彼の勝利を祈ることにした。
「おい、こいつ殺すか?」
「ナーヤに手出したんだ、タダじゃすまねぇぞ!」
盗賊と木こりが武器を手に取り、彼をターゲットに突撃する。
「メエエエェェェェェェエン!」
奇声に近い叫び声を上げながら杖を目に見えない速度で振り抜き、盗賊の頭に直撃させた。
一撃で気絶させたものの、杖は真っ二つに折れる。
「オオオオッ!!!」
その隙をついて大男が斧を振り下ろすが、即座に距離を取り紙一重で避ける。
「コテッ!!!」
折れた杖の先端を敵の手首に押し付け、木こりは痛みで反射的に武器を落とす。
丸腰になった男の頭を掴み、勢いよく投げ捨てる。
「オラァッ!?」
放り投げられた男も木に激突し、地面に倒れ込む。
「へぇ……」
狼男がそう呟くと両刃の剣を取り出して近づいてゆく。
「死ぬ気でかかってこい!!」
倍ほど大きい体躯で吼えるを持つ怪物を前に、青年は震えながらも立ち向かう。
「くっ!」
駆け抜けながら武器を斧に持ち替え、高速で狼の懐に潜り込む。
「どぉぉぉぉぉぉぉおう!!!」
胴体の鎧の隙間に狙いを定めて全力で振り抜く。
「……あ」
振り抜いたはずの斧は巨大な片腕で押さえつけられて、寸前のところで刃の動きが止まる。
「確かにパワーはあるみたいだが、俺ほどじゃあないみたいだな!!」
「うおぉぉっ?!」
先程のお返しとばかりに山なりに投擲される青年。
「ガッ!!」
地面に叩きつけられ、口元や手のひら、膝、体の隅々から血が零れ落ちる。
手足が震えながらも再度斧を手に取り、立ち上がる。
「お前はガッカリさせるなよ。」
牙が再び煌めく。
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