第10話 二人の決意
朝倉が話し終えたあと、ブースの中には、しばらく沈黙が落ちていた。
誰も悪くないのに、なぜこんなに追い詰められてしまったのか。
その理不尽さを、二人とも抱えきれずにいた。
「……このままじゃ、終わるよな。俺たち」
その言葉に、朝倉がゆっくりと顔を上げる。
「……終わりたくない、です」
今にも壊れそうな声。
でも、その奥にまだ終わりじゃないという微かな光があった。
俺は、その光に背中を押された。
「俺……生活保護、受けようと思う。
今日までずっと迷ってた。でも……もう、選んでる余裕ないし」
言いながら、自分でも驚くほど心が軽くなっていくのを感じた。
諦めじゃなく、再スタートだと、初めて思えたからだ。
朝倉は、ふわっと息を吸い込んだ。
「……私、相談について行ってもいいですか?」
「え?」
「なんか……あなたが一人で行くの、心配で。
それに……私も、もう一度ハローワークで相談してみたい。
本気で、やり直したいから」
その瞳は揺れているのに、言葉だけはまっすぐだった。
俺の胸が熱くなる。
「……じゃあ、一緒に行こう。明日……いや、今日か。ここを出て、まっすぐ行こう」
朝倉は目を見開き、それから小さく微笑んだ。
泣きながら笑うその顔は、どんな言葉よりも強い決意を宿していた。
「はい。……一緒に、抜け出しましょう」
二人は初めて、ネカフェの薄暗い照明を“夜明け前の光”のように感じた。
たとえみっともなくても、生活保護でも、ハローワークでもいい。
一歩でも前に進めるのなら、それでいい。
そんなことを思いながら、俺は言った。
「……ここ、今日が最後になるといいな」
朝倉は静かに頷く。
「絶対、最後にしましょう」
深夜のネカフェ。
外の空はまだ暗い。
だけど、二人の中には、確かに“明日へ続く光”が灯り始めていた。
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