お題39:電車に乗ったら、車掌さんが“本日の迷子は3名です”と普通にアナウンスしてきた。

(はぁ……今日も残業でしんどかった)


 仕事帰りのくたびれたサラリーマン、という表現があるが、まさしく今の俺にふさわしい呼び方だろう。今乗っている満員電車には俺と同類の社会人がごった返している。


 いつもなら聞き流している電車のアナウンスがやけにうるさく聞こえる。イヤホンでごまかそうとしたのだが、次の言葉で手が止まった。


「本日の迷子は3名です」


 聞き間違いだろうか。電車の中で迷子って、何を言っているんだ。


「仕事を始めた目的を忘れて、ただ奴隷のように働き、目指す場所を見失った。そんな迷子が今、3人乗っています」

(あ、迷子ってそういう?)


 何かの悪ふざけだな、こりゃ。


「何かの悪ふざけだな、と思ったそこのあなたの事ですよ」

(は? 心読まれてる? 嘘だろ?)

「いいえ、本当です」

(会話が成立してるだと!?)


 なんなんだこの奇妙なアナウンスは、怖すぎる。早く最寄り駅についてくれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る