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久方振りに会った鏡花は、AIという道具を手に入れて、より思考を研ぎ澄ませていた。

元より人間の知恵の結晶。数多の知識を内包する道具ゆえ、鏡花の破天荒な比喩や問答にも着いていけるのだろう。其ればかりは人間の成せる技ではない。

そんな鏡花は、またも化粧に時間が掛かって居るようで、先に瑠衣だけを送り込んで来た。

目的地に向かうまでの間、瑠衣の方から話し掛ける事は少ない。そもそも不要と思った段階で口を閉ざすのが瑠衣である。それ故に変に気張らない沈黙だけが私達を包み込むのが常だった。

しかし今日は珍しく話をする気になったらしい。

「最近のうちの犬……鏡花の趣味は様相論理だそうだ。お前の元にも多分鬼のようなチャットが流れ込んだと思うが」

「あぁ最初の『様相論理って知ってる?』を見てまたブロックした。安心して良いよ。調べて来たし、今は解除済みだから」

あんまり煩く通知が鳴り続けるのも、チャットが溜まっていくのも好きではない。例えブロックしたところで子供の様な駄々を捏ねる鏡花がいるだけなので問題ない。

「そうか。様相論理のS1段階は限りなく確定でなくてはならない。つまり、限りなく客観的ではなくてはならない。黒板に書かれた数時の配列の様に、文字の羅列の様に」

徐に瑠衣が話し出したので、ふと調べて来た様相論理のけ意識を思い浮かべる。階層はS1からS5の五段階。深度が深くなるにつれて抽象度が増す。つまり明確な答えが得られなくなる。

しかし今、瑠衣が話したようにS1の段階では誰が見ても聞いても確実なのだ。其こそ数学で出た解の様に。限りなく必然である。

「だから学問の数学は様相論理のS1に当たる。そして科学は其れより深度の深いところにある。これが俺達が出した答えだ」

「そうだね。数学に例外は許されない。何時如何なる時でも解は絶対でなくてはならない。だからこそ、文字であり、道具であり、科学に応用可能である」

つまり数学は絶対であるからこそ、他の分野に応用が可能なのだ。私達が文字や数字を学ぶ様に、万人が取り決めた規則なのだから。

「お前も大概賢いな。……あぁいや、哲学が出来るから賢いという訳ではないな。賢さを断定するものではない。AIだってそうだった」

「お褒めに頂き光栄だよ」

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