车祸

ある日、私は正雄君と池田の店の居酒屋で飲んでいた。彼は私の新しい手稿を見ながら思いに耽っているようだったが、私はそれほど気に留めていなかった。文子が少し注意しろと言ってきたが、今日は忙しい中の束の間の休みだった。ビールジョッキの泡が弾けるのを見つめ、私はため息をついて振り返ると、正雄君が慷慨激昂として話しているのを聞いた。彼は少し酔っていたろう、鼻先が真っ赤になっていた。

夜の居酒屋はまだにぎやかで、戸外にはトヨタ車のエンジン音がひっきりなしに響いていた。当時は赤い車が非常に流行っていた。私と正雄君は二階か三階に座っていたのだが、はっきりとは憶えていない。ただ、店内の階段は木製ではなく、ミュンヘン式の内装だったことだけは依稀として覚えている。さすがに私は少し神志が混乱しているようだ、記憶力が昔ほどではなくなった。

忽然、下から大きな音がしたが、すぐに静まり返った。夜は何も見えず、街灯の下だけがぼんやりと見える程度だった。私はまだ酔っていなかったので、疾走していく車が赤いことを見た。正雄君はもう

少し胡言乱語を始め、舌を噛んではっきりと言葉を発せなくなっていた。

「龍君、見なくていいよ。あの大きな音はきっと誰かがブレーキを踏んだんだ。しかも窓の外の人々は一言も言わないから、きっと大丈夫だ。もう一杯飲もう、阿文には言わないよ。」

私は拒否した。毕竟、私の体調はずっと悪いので、冒険するわけにはいかなかった。降りる時は、ほとんど正雄君を支えていた。彼はもう目を開ける力もなくなっていた。会計をした後、私は彼を腕に掛けて街角まで行くと、街灯から少し離れた場所に少年が横たわっていた。背が低く痩身で、血まみれになっていた。彼は濃紺の制服を着ていた——私はそれが近くの小学校の秋用制服だと知っていたが、彼の腰肋は深くつぶれていた。肩に掛けている正雄君は熟睡しているようだった。私は思った。さっきの大きな音は、必ずしも車のブレーキ音ではなく、少年の悲鳴だったのかもしれない。疾走していったのも、必ずしも今流行っている赤いトヨタ車ではなく、血で染まった白い車だったのかもしれない。

この奇妙な出来事はもう忘れかけていたが、正雄君から手紙をもらって思い出した。彼は「ある夜、忽然ピアノを叩くような音がしたが、その後、下の藤原君のバイクの音だと分かった（私はこうした大きな音を立てる二輪車は本当に苦手だ）」と書いていた。

こうした異常なことはよく起こるだろうが、私はそれほど惊悚したとは思わない。おそらく今の都市の音が too 雑然としていて、諸君の清静を邪魔しているのだろう。正雄君が次は家の近くの居酒屋を選んでくれれば、

そうでなければ私はほんとうにご苦労する。