右のマイ、左のマイ

チェンカ☆1159

右のマイ、左のマイ

 あるところで、一人の男が分かれ道を前に悩んでいました。

「おにいさん、こっちにおいでよ。最初は気楽な道のりだからおすすめだよ〜」

 先に声をかけてきたのは右の道にいた黒い着物の少女です。頭には二本の細い角が生えています。

 男が右の道に行こうとすると、今度は左から白い着物の少女が呼びかけました。

「こっちにおいでなさい。道は苦しくとも辿り着いた先には良いことがありますよ」

 その少女もまた、二本の細い角を生やしていました。

 男は悩んだ末に最初に呼ばれた右の道を選びました。その男は罪人だったので、進んだ先にあった地獄で思い罰を受ける羽目になりました。

 続いて一人の少年がやってきました。二人の少女に呼びかけられた彼は少し迷って左の道を選びました。その少年は親想いの優しい子だったので、進んだ先にあった天国で楽しく暮らすことになりました。

 それからしばらくして一組の老夫婦がやってきました。少女達が呼びかけると、老爺は左を、老婆は右を選びました。

「元気でな、ばあさんや」

「ええ、じいさんもね」

 二人は離れ離れになる選択をしたようで、少女達は困ってしまいました。二人は夫婦、向かう先は同じになると思っていたのです。

「おじいさん、考え直したら?」

「おばあさん、本当にいいの?」

 尋ねると、今度は老爺が右に、老婆は左に変えることにしました。またもや揃わない意見に、二人の少女は怒ります。

「なんで一緒の道を選ばないの?」

「普通は夫婦で同じ道でしょう?」

 それを聞いた二人は不思議そうに顔を見合わせ、少女達に言いました。

「よくお聞き。ばあさんは悪い女じゃ。わしの大切な小鳥を虐めたしすっごく欲張りなんじゃよ」

「あなたが謙虚すぎるんですよ、じいさん。それにあの鳥は悪さをしたので罰を与えただけです」

 それぞれの言い分を聞いた少女達は老夫婦に背中を向けて相談を始めました。

「ねぇマイ、どう思う?」

「そうねぇマイ、おじいさんはおばあさんのことを悪く言っていたわ」

「でも二人の言うことが正しいなら、おばあさんは欲張りで、おじいさんは謙虚みたいよ」

「これは困ったわね」

 二人のマイは相談した結果、一度二人とも右の道へ案内することにしました。地獄にいる閻魔様に判断してもらおうと考えたのです。

 黒い着物を着た、右のマイが言いました。

「それじゃあ二人とも、こっちへいらっしゃい」

 すると老夫婦はそれを嫌がりました。

「なんでばあさんと一緒に行かなければならんのじゃ」

「私だってじいさんと一緒に行くのはお断わりですよ」

 すると左のマイが提案しました。

「それならどっちかが先に道を進んで、時間が経ったらもう一人が後から行けばいいわ」

「それならわしから行こう。案内しておくれ」

 老爺が我先にと右の道へ進みました。右のマイは彼を連れて姿を消しました。

 残された左のマイは老婆に言いました。

「おばあさん、どうぞお戻りください」

「なぜだい?」

「おじいさんは旅立ちましたから、道を戻ればお一人で好きなように生きられますよ」

 それを聞いた老婆は礼を言って道を引き返しました。

 こうして息を吹き返した老婆は、もう一度その時が来るまで一人楽しく過ごしたそうです。

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