すずめ屋文庫 うさぎのミンファと、はじまりの森

@Suzumeya_Bunko

第1話「ミンファと、はじめてのおともだち」

ここは、色とりどりの花と木々がゆらめく森の中のお話。

色鮮やかな蝶が飛び交い、花の蜜を吸う。湖のほとりでは、喉を潤すために様々な動物がやってきます。


そんな森の、ある日のこと。

森の朝は、ひんやりとして、澄んだ空気で満ちていました。

「ん〜〜っ……」

ぴょん、とベッドから跳ね起きたのは、うさぎのミンファです。

ちょっぴり頭に寝ぐせがついて、白い毛がピョコンと立ち上がっています。

勢いあまって、

「こつん」

テーブルの角に長い耳をぶつけてしまいました。

「いたた……あはは、大丈夫、大丈夫」

ちょっと涙目になりながら、ミンファはそう言って、くすくすっと笑います。


窓を開けると、冷たい風といっしょに森のにおいが流れ込んできました。

朝日が窓から入り込み、虹色に輝いています。

「今日は…なにか、いいことがありそう」


ミンファはそうつぶやき、台所へ向かいました。

そこには、干してある人参と、トマトスープの入ったお鍋、手作りのナン、そして昨日焼いたばかりの、小さなシフォンケーキがありました。

ふわふわで、やわらかくて、表面はほんのり茶色。

真ん中が、すこしだけ、くぼんでいます。

ミンファはじっとそれを見つめ、満足そうにうなずきました。

温めたトマトスープとナンを朝食にして、ミンファはかごを持って森へ出かけました。


ぴょん、ぴょん、ぴょん、と跳ねながら進む小道。

サクッ、サクッと落ち葉を踏む音。

「ピロロロロ〜…ピチチ…」遠くで鳴く、鳥の声。

ときどき、つるりと足をすべらせ、

「わっ…と!」

でもすぐに立ち上がって、ケラケラ笑います。

ミンファはこの森が大好きでした。


そのときです。


カラカラッ……。

何かが動く気配がして、頭の上に、ころん、と木の実が落ちてきました。

「?」

ミンファが拾い上げ、そっと見上げると――

枝の上から、つぶらな瞳がこちらをのぞいていました。

りすです。

尻尾をちょっと立てて、少し警戒したように、でもどこか興味深そうに。

ミンファがぴょん、と跳ねると、りすはくすっと笑いました。

「ねえ、一緒に遊ばない?」

そうミンファが声をかけると、りすは少し考えてから、

「…いいわよ」

と答えました。


りすの名前は「デイジー」といいました。

デイジーが走ります。

ミンファが跳ねます。

大きな木の周りを、ぐるっと一周。


その途中で――


「うわっと!」

ミンファがまた転びました。

デイジーはぴたっと止まって振り返ります。

「ドジねぇ〜!」

そう言ってから、ふふっと笑いました。

ミンファも、

「あはは!」

と声をあげました。


その後、二人は木陰に座って少し休みました。

目の前には大きな木の切り株があります。

そこでミンファは思い出しました。

「ねぇ、デイジー。私、人参のシフォンケーキを持ってきたの。良かったら、一緒に食べない?」

デイジーは目を丸くして、でも嬉しそうに言いました。

「シフォンケーキ? 私、普段は木の実を食べるから、シフォンケーキは食べたことがないわ。でも、あなたがいいって言うなら、いただくわ。」

ふわふわのケーキを一口かじると、

「なにこれ!? 木の実とは全然違うわ。口の中でとろけるみたい…美味しい!」

その言葉を聞いて、ミンファはとても嬉しく、心が温かくなりました。

「ねぇ、よかったら、またここで遊ばない?」

ミンファがそう聞くと、デイジーはにっこり笑って、

「ええ、いいわよ。次は私がとっておきのクルミを用意してあげるわ。」

二人は互いに見つめ合い、笑い合いました。

ミンファは、デイジーと遊んだこの大きな切り株の場所が、とても好きになりました。


その後、二人がお互いのことを話していると――


カサッ。


ミンファの耳がピクッと動きました。

後ろの木の葉が少し揺れたような気がしました。

風ではありません。何かの気配…。

ミンファはそっと振り返ります。


……でも、誰もいません。


「どうしたの?」

デイジーが聞きます。

「ううん、なんでもないよ」

ミンファはそう答えました。


気がつくと、夕日の光が森に流れ込み、木の葉の影が光とともに黄金色に輝きはじめました。

「また明日、ここで遊ぼうね」

二人はそう約束しました。

家に帰ったミンファは、今日のことを思い返し、とても幸せな気持ちになりました。

「初めてのおともだち…かな。」

ミンファの口元がにっこりと上に上がっています。

なんだか、これから楽しいことが起こる予感までしてきました。


その日、ミンファは沢山、森の中で走ったにもかかわらず、なかなか寝付けませんでした。明日になるのがとても待ち遠しくて…。明日はデイジーと何をして遊ぼうか、にんじんクッキーを持っていってもいいなぁ、また新しい食べ物にびっくりするかな?クスクス。そんなことを考えながら、ミンファはいつの間にか、夢の中へと入っていきました…。

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