真っ二つのたい焼き、その後。

夏乃鼓

第1話真っ二つのたい焼き、その後。

「ごめん、言い過ぎた。……でもさ、食べ方は自由にしようよ。」


◇◇◇◇◇


--話は、30分前に遡る。


私-瀬奈(せな)と友達の理桜(りお)は、SNSで話題沸騰中のたい焼きを買いに来ていた。私も理桜も、甘い物が大好き。部活やクラスは違うし、性格も違うけど、放課後や休日に甘い物を買って食べるのが、私たちの楽しみなんだよね。


それで、今回はたい焼きを買ったっていうわけ。座れる場所を探すと、お店の近くに公園があった。小さい子たちが活気良く遊んでいて、休日の賑やかさを感じた。私たちはベンチを見つけて座り、私がたい焼きを食べようとしたその時だった。

「ちょっと瀬奈ちゃん!!どういう食べ方するの?!」

「……へっ?」

「たい焼きさん、可哀想じゃない!!」


急に、理桜が怒り始めた。私の両手には、お腹辺りから半分に割ったたい焼き。たぶん、このことに怒っているのだろう。

「いやいやいや、たい焼きって食べ方自由じゃなかった?!私、あんこの甘さをすぐに味わいたいから、この食べ方してるだけたし。」

「食べ方は自由かもしれないけど、お腹から真っ二つなんて、たい焼きさんが可哀想!!それに、甘い物もビジュアルが大事だよぉ!!」

「そんなこと言ったら、頭から食べるのも見てて可哀想だけど、それは良いわけ?!」

「たい焼きさんは、頭から食べてこそでしょ!」

「それは、理桜の意見じゃん!!なら、私だって好きな食べ方するし!!」

「瀬奈ちゃんがそんな可哀想な食べ方するんだったら、私帰る!!!」

理桜は怒りながらそう言って、小走りで公園を出ていった。


私は、たい焼きの食べ方を否定され、無性にイライラした。理桜を追いかけず、そのままたい焼きを口に運んだ。

「あんこが甘すぎなくて、何回も食べたくなる味。……だけど、何か物足りない。」

さっきまで賑やかだと感じていた子どもたちの笑い声が、いつもより大きく耳に響いた。


その後も、1人で黙々とたい焼きを食べたけど、1個食べ終わる頃には、あまり感じたことのない感情が襲ってきた。理桜と一緒に美味しさを分かち合えない寂しさと、些細なことでケンカしてしまった恥ずかしさ。


◇◇◇◇◇


--そして、現在に至る。


いてもたってもいられず、私はすぐに理桜に電話を掛けた。

「……もしもし、理桜?」

「……ぐすん、なぁに。」

「ごめん、言い過ぎた。……でもさ、食べ方は自由にしようよ。」

「……私も、ごめんなさい。たい焼きさんが可愛かったから、瀬奈ちゃんの食べ方が嫌だったの。……でも、瀬奈ちゃんの言う通り、食べ方は人それぞれよね。」

「理桜……。」

「……それに、1人で甘い物を食べたけど、瀬奈ちゃんと一緒に食べる時が1番幸せだって、私気付いたの!」

「それは、私も一緒だよ!仲直りして、また一緒にたい焼き食べようよ!」

「うん!」


その後、理桜と合流し、面と向かってお互いに謝って仲直りした。そして、私たちはまたたい焼きを買いに行き、公園のベンチに座る。


今度は、カスタードクリーム味のたい焼きと、チョコレート味のたい焼き。私たちは2つ共半分に割り、お互いに手渡した。さっきまで言い合っていたのが、まるで嘘みたい。


「「いただきまーす。」」


たい焼きの美味しさと、一緒に食べる人がいる幸せで、私たちから自然と「ふふふっ……」と笑みが零れる。


分かち合える喜びがあるって、幸せなんだね。

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