アンバーに色づいて
黒木蒼
📷1
「それじゃあ、18時に駅前のバイキングのお店で!」
9月。夏休みから準備していた文化祭が、それなりに成功という形で幕を閉じ、温かな空気で満たされた教室に高く鋭い声が響いた。
クラスメイトたちは各々に「了解」とか「はーい」と返事をしては、打ち上げをするのがどんなお店なのかスマホで検索をしていた。帰りのホームルームは終わり拘束時間は過ぎたというのに、誰も教室からは立ち去ろうとしない。集合までゆうに1時間は超えているため、ここで時間を潰そうとしているのだろうか。
みんなの注目は、スマホ、各々の話相手へと向いている。今がチャンスだと荷物をもって席から立ち上がり後方の出入口から足を一歩踏み出したところで
「田町さんも来るよね?」
ヒエラルキー最上位のキラキラ女子に引き留められ退路を塞がれた。
存在感を消している自信はあった。しかし、誰も立ち上がって帰ろうとしない中、こそこそと動く姿は悪目立ちしてしまっていたようだ。
「あ……、うん」
私を除くクラス全員が行く空気の中、私だけが断るなんて――しかもわざわざクラスの指揮を取るような存在に声をかけられてありながら――次の日の席がないに等しい。
定められた台詞を無理矢理読まされたように言葉を返した。行きたくない気持ちを汲み取ってくれと言いたげな態度を見せるも、相手は察することなく「だよね。よろしく〜」と、特に歓迎するわけでもない返事が返ってくる。
私を誘ったのは義務感からなのか、それとも団体割引の人数合わせのためなのか。どちらにせよ、私の気持ちと財布が寂しくなることには変わりなかった。
打ち上げは予想通りに退屈なものであった。楽しそうなのは目立つ声の大きい人たちばかりで私たち――いや、私たちと一括りにするのは失礼かもしれない。彼女たちには感想を共有できる親しい友人がいる。――には苦痛な時間であった。
料理は普通に美味しかった。だけど胃袋には限界がある。30分の間に限界を迎え、途端に手持ち無沙汰になった。好きなものを取って食べるのが楽しみであるバイキングで、食べることを取り上げてしまったら教室と変わりない場所だ。いつもの昼休みのようにスマホをいじるしかない。普段なら家で気楽に過ごせているところを、気を張ったまま過ごす。早く制限時間がやってきて解放してほしいと心の中でため息を吐いた。
バイキングの制限時間は2時間半。しかし楽しさに夢中になった一部のクラスメイトたちは、制限時間なんて最初から存在しなかったみたいに盛り上がり、結局、会は1時間押しになった。
遠くで「最後に写真を撮ろうよ」と、炭酸のような弾けた声が聞こえる。自意識過剰かもしれないが、画面の中に収まらないように体を傾けた。
打ち上げをきっかけにして、話したことないクラスメイトと盛り上がり仲良くなるなど夢のような交流イベントは発生せずに終わった。
――終わったはずだった。
降りたと思った幕は羽鳥優香によって無理矢理上げられることになっていく。
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