領主の娘と転生者のグルメ日記

コックリまったり

第1話 領主の娘と転生者

朝食を食べた後の散歩は気持ちがいいわ。特に、この後に美味しいものが待ってると思うと尚更!


「ねえ、今日はどんなものを作ってくれるのかしら?」と極めて冷静を装って聞いていますが、私の心は・・・それはそれは期待でいっぱいなの!

 隣を歩く少年は、数か月前に転生者としての記憶が戻ったジェレミア・フォーゲル。私は、親しみを込めてジェリーと呼んでいるわ。

 今日は、ジェリーが新しく何かを試作?するというから、こんな時間から街に来たというわけ。

 以前作ってくれた「パンケーキ」というものは、驚くほどフワッフワでモチモチもしていて・・・、卵の香りと焼けた表面の香りが最高でした!そして、そのパンケーキにかけたカラメルソース?が甘くて、ほんの少しだけ苦くて、でもそのちょっと苦いのが甘ーい味に適度に溶け込んでいて、バターの香りもして・・・・。本当に美味しかったな・・・。ジュル・・・。

 な・・・なによ!と、とにかく、それはもう美味しかったの!そんな美味しいものを食べてしまったあとに、また何か作ると言われたら眠くても来るしかないじゃない!


 あら、いけない。自己紹介がまだでした。大変失礼をいたしました。

 この、フーペの街を治める領主ローレンス・グラントの娘

 エリアノーラ・グラントと申します。お見知りおきくださいませ。

 

 

 「お嬢様・・・。先程、朝食をお食べになったばかりなのでは?」

 「あら、ジェリー。私の朝食の時間まで知っているなんて・・・ウフフ、私の追っかけかしら?」

 「はあ・・・。また始まりましたね・・・。追っかけではないですし、先程ご自分でメニューを仰られてましたよ。」

 「え?そ、そうだったかしら?・・・・・あ!そうだジェリー!今、また私のことを "お嬢様”って呼んだでしょう!私のことは "エリー"と呼んでと何度言わせるの!いつもいつも。」

 「あ!また、すぐそうやって誤魔化すんですから。呼び方に関しては、そうは言われましてもね・・・。領主様のご息女ですし、人目もありますので・・・。」

 「人目って、街のみんなもエリーって呼ぶのだけど?」

 「・・・・・・」


 

 この通り、ジェリーはなんとも”お堅い”性格で、なかなか愛称で呼んでくれさえしないの。まあ、私の方がお姉さんですし、あまり問い詰めても可哀想だから、いつも折れてあげるのですけど。今は、なんとか愛称で呼ばせようと奮闘中よ!

 だって、親しい間柄の人には愛称で呼んでほしいもの。そのためのものでしょう?

 歳は、私が10歳。ジェリーは、半年前に6歳の誕生日を迎えたの。ご両親に聞いたのだけれど、その日の朝起きて一言目に「あの・・・、僕どうやら転生者みたいなんですが・・・。」って言いながら起きてきたんですって!

 この街には、もう一人転生者がいらっしゃるのだけど、前世の記憶が戻るってどういう感じなのか詳しく聞いたことがなかったの。そこで、聞いてみたのだけど・・・。

 ジェリー曰く「記憶が上書きれるというより、知識として身につく?というか・・・。表現が難しいですが、それまでの自分がなくなるわけではなく、ジェレミアが知識と技術を継承してるというか。私は転生者ですが、あなたが前から知っているジェレミアです。というのが近いでしょうか。ちゃんと、前世はなにをしていた、とかもわかっているので、自分でも変な感じです」・・・だそうよ。

 どうやら、転生者は本当に最初から前世の記憶を宿しているわけではないみたい。

 でも、ジェリーは6歳だけれど、やはり転生者だからなのかとても大人びているわ。

 そういう部分を見ても、前世の記憶がジェリーに何かしら作用している感じがする。言葉遣いもとても丁寧(私は、それも気に入らないのだけど!)で、お姉さんの私より大人ぶっていて、それも少し気に入らないのよね。まだ6歳のくせに・・・。でも、きっと前世では私よりも歳が上だったのよね・・・。なんだか不思議。


 「そうよ、さっきの質問への答えは?」

 「あー、何を作るのかっていうやつですか?」

 「そう。私、こう見えてとても楽しみにしているんだけど!」

 「もちろん、存じておりますよ。なので、味見の大役に任命したのです。」

 「で?いったい何を作るの?どんな系の?甘いの?しょっぱいの?」

 「まあまあ、もうすぐ着きますから。」


 私のお父様が領主として治めるこの「フーペ」という街は、私たちの住む大陸「フリスゼニア」の北側一帯にある農業国「ファーミル」の中でも一番大きい街で、農産物の生産もかなりの割合を占めているの。

 「どの領主の治める街も、大きさや人口はさほど変わらない。」とお父様は仰っていたけれど、「わがフーペが一番活気があり栄えている」とも仰っていたのよね。それがどうやら、ことに関係していて、というのが一因みたい。

 「そんな不公平でほかの領主様や国王様は何も言ってこないの・・・?」と当然気になりましたが、

 「それは無い。他国は知らんが、この農業国ファーミルでの転生者が産まれる街は、わがフーペだ。転生者による恩恵を独占しようなどと、私や、私に連なる者、わが領民がそのような卑しい考えの人間にならぬよう運営をしているつもりだ。それに、転生者がもたらす利益は必ず国全体に届くように差配する、という約款を国王と歴代グラント当主は結んでいる。よほどのことがない限り、他領や国王が何か手を下してくるということはないだろう。何より、国は1つの街で出来ているのではない。集合体なのだ。他領主と上手くやれねば、街の発展も国の発展もない」

 やっかん?というのはよくわかりませんでしたが、お父様はご自分の領地運営に自信を持たれていました。事実、フーペの街は治安も安定していると他領出身の家の者も言っていました。他領では、そこまで深刻ではないものの、多少の治安悪化の兆しがあるところもあるとか・・・。


 「あら!エリーちゃんじゃないの!ジェリーとお出かけかい?」

 「お肉屋さんのおばさま、おはようございます!そうなの!何度聞いても、どこに行くかは教えてくれないんですけど!」

 「・・・・・いえ別に、意地悪しているわけではないですけどね・・・?」

 「おっ!エリー嬢ちゃん!この前の野菜はどうだった?うまかったろ!」

 「八百屋さんのお兄さん!はい!とっても瑞々しくて、美味しかったです!お父様も喜んでいました!」

 「作ってるダチに言っとくよ!めちゃくちゃ喜ぶぞアイツ!」

 この街は、みんな私が家族かのように接してくれます。もちろん、領主の娘だからというのもあるのでしょうけど、それだけとは思えないのは勝手な妄想でしょうか。


 私にはお母様の記憶がありません。私が産まれてすぐに亡くなったと聞いています。元々、そんなに体が丈夫では無かったようです。街に出て、楽しそうに買い物をする親子を見たりすると、確かに淋しい気持ちになることもある。ありますけど、お母様がいない分お父様は優しくもあり、領主の娘として育てるべく厳しくもあり、2人分の愛情すら感じます。

 それに私は、街に出ればこんなにたくさんのお父さんやお母さん、兄弟姉妹が温かく接してくれて、快く迎えてくれるんですもの。これで寂しいなんて言ったらバチが当るってものです。街に出るたびに思います。私は、この街が大好き!


 「お嬢様、見えてきましたよ」

 

 ジェリーの声で前を向くと、指さす先にあるのは街でも人気のパン屋「ベーカリー アレン&アイリ」というご夫婦で営んでいる人気店。私もお父様も、屋敷のみんなも大好きな美味しいパン屋さん。二人のお人柄もあって、常連さんがたくさんいる繁盛店なの。


 「アレンさんのお店じゃない。わざわざここで?」

 「はい。アレンさんにもちょっと用事があったので」

 「あらそう。まあいいけどね。私の目的は変わらないし」

 「あはは・・・」


  この前のパンケーキも美味しかったけど、今回は一体何を作ってくれるのかしら。とっても楽しみ!


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領主の娘と転生者のグルメ日記 コックリまったり @nana7larcenciel

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