敵から拾った刀が生涯最高の相棒になった話
日常さん
プロローグ
パシっと叩き合わせる音が響く。一人の中年男性と十人以上の学生が木刀で打ち合っていた。
「そんなんじゃ、まだまだ一人前には程遠いなぁ?」
ニヤニヤしながらその男は言う。額に青筋を浮かべた少年たちの剣撃が鋭くなるが、それを軽くいなす男。
そして、一人の少年の背後にまわり首筋に一撃を与えると、少年は気絶した。
その様子に動揺する少年たちの隙を逃さずに男は、雷のような素早さで残りの少年たちを倒す。
「ほいおしまい」
その余裕の言葉に反応するものは既に一人もいなかった。
数十分後、ようやく一人の少年が起き上がった。
「おっ、やっと起きたか。お前がやっぱ一番最初に起きると思ったよ」
少年は未だに痛みを覚える首筋を右手で押さえながら、初めて眼前の男と出会った日から抱いていた質問を口にした。
「んー?なんで俺がこんなに強いのかって?魔法も使ってないのに?」
その質問に男は目を細めて、その質問を待っていたかのように、嬉しそうな声色で答える。
「それを話すには俺の昔話をしなければならないんだけど……聞きたい?」
少年は深く頷く。その様子により一層嬉しそうな笑みを浮かべて男は言う。
「じゃあ、話そうかな。よく聞けよ?」
一人の少女が、病室の中で窓の外を眺めていた。
外の星々と、雪の結晶がゆらゆらと月の光に反射して光っている。儚い結晶がどうかずっと存在することができるようにと、少女は願っていた。きっと自分はあの雪が溶けるまで生きていけないから、せめてあの雪には残っていて欲しいと願っていた。
「どうしたんだい?おじょーちゃん。悲しそうな顔で外なんか見て」
そんな儚く消えそうな少女に対して、反対に明るく話しかける老人の声があった。
少女が入院した頃からいた老人だった。彼は、いつも人に囲まれていた。孫や、妻と思われる女性。多くの友人。日中は誰かしらあの老人に会っていた。
自分とはまるで違うその老人に少なくない羨望を抱いていた少女は、自分に話しかけてくれたことに喜びを抱いていた。
「……雪を見てたの」
そんな心情からか、少女はその老人の問に答えていた。
「雪かい?」
「うん」
その少女の返事に、老人は外を一緒に眺める。
「雪が……好きなのかい?」
老人は優しい笑みを浮かべて聞く。少女はその問いを聞き初めて老人の方を向く。
綺麗な瞳だと思った。
綺麗な髪だと思った。
蒼色の目。
白色の髪。
まるで外の雪のように美しく、でも不思議と儚さはなかった。
「うん……雪は好き」
「そっか」
老人はその返事が嬉しかったのか、言葉に喜びが滲んでいた。
「実はおじちゃんな、雪の魔法が得意なんだよ」
突然そんなことを老人は言う。雪魔法が得意……そう言われた。少女は興味が湧き上がってくるのを自覚した。
「そう……なの?」
「うん。おじちゃんこう見えても、昔色んな人に魔法とか刀の扱い方とか教えてたんだよ」
刀……それに雪魔法。もしかしたらこの老人はすごい人なのかな。少女はそう思った。
「そうだ。暇だしさ、せっかくなら眠たくなるまでおじちゃんの昔話を聞かないかい?」
老人の提案は魅力的だった。何もすることがない。何もすることができない少女にとっては、この世から消える前の数少ない楽しいことになる予感がしたのだ。
「うん……聞きたい」
少女の返事に、老人は一層嬉しそうな表情を浮かべて言う。
「じゃあ話そうか。」
「『敵から拾った刀が生涯最高の相棒になった話』を」
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