誘拐犯の間違え電話

如月

誘拐犯の間違え電話

―プルルルル、プルルルル。




「もしもし、岩井です。」


「おい、お前の娘は預かった。1000万用意しろ。」


「えっ……?」




―ガチャリ。




「えぇ、俺、娘なんていないんだけど。ただの苦学生に1000万なんて払えるわけないし。えぇ……?とりあえず警察か。」




―プルルルル、プルルルル。




「わっ。……もしもし。」


「オレだ。オレオレ。」


「誘拐の次はオレオレ詐欺ですか?」


「うぅ、ばあちゃん。オレ骨折しちまって……って何やらせとんじゃ!!」


「いや、勝手にやったんだろ!!」


「おい、あんま舐めてると娘に酷いことするぞ。」


「ってか俺……。」


「とりあえず、さっき言い忘れたこと言っておく。」


「あ、ああ。」


「警察にいったら許さねえぞ。」




―ガチャリ。




「あっ、切りやがった。」




―プルルルル、プルルルル。




「って、なんだよ。もしもし!?」


「オレだよ。オレオレ。」


「またオレオレ詐欺ですか。」


「うぅ、じっちゃん……って、何やらせる気じゃ!!」


「この流れさっきもやったよ!?」


「とりあえず、さっき言い忘れたこと言っておく。」


「ま、またですか……。」


「金は明日までに用意しておけ。以上だ。」




―ガチャリ。




「さっさと切りやがって……。って、当然か。誘拐犯だもんな。」




―プルルルル、プルルルル。




「えぇ?何回掛けてくるの?」


「オレだ。オレオ……。」


「しつけぇよ。いいだろもうこの流れ!!」


「ちっ、ノリの悪い。」


「この誘拐犯、被害者に何を求めてるんだ……。」


「とりあえず、さっき言い忘れたこと言っておく。」


「ま、またぁ?段取り悪すぎだろっ!!」


「明日の12時にハチ公前に1000万だ。」


「えっ?そんな目立つ場所で?」


「必ず持ってくるように。絶対だぞ。」


「ちょっ、待てよ。」


「なんだ?」


「電話している相手間違えてるぞ。」


「ま、まさか!?」


「おぉ、気づいてくれたか……。」


「なんて非道な!?金を払いたくないからって、自分の娘をいないもの扱いだと!?」


「は……?だから、最初から俺に娘はいねぇよ。」


「ぐすっ、嬢ちゃんも苦労してんだな。」


「おいっ、話を聞け……!!」


「金額倍増だ!!2000万用意しろ。」




―ガチャリ。




「ちょっ、えぇ……?話聞けよ……。とりあえず、掛けなおすか。」




―プルルルル、プルルルル。




「もしもし~、私、黒木商事の白河と言います。」


「黒なのか白なのかどっちなんだよ。」


「はい?えっと、いかがなされましたか。」


「オレだよ、オレオレ。」


「ま、まさか息子!?」


「おう、そうだ。ちょっと骨折しちまってな。」


「そ、そうなのか。もうすぐ2000万手に入るからちょっと待っててくれ。」


「って、誘拐犯がオレオレ詐欺に引っかかるんじゃねーよ!!」


「はっ!!騙したのか、この人でなしめ!!」


「誘拐犯の台詞じゃねぇよ!!」


「はっ!!」


「今度は何だよ。」


「娘は預かった。3000万用意しろ。」


「ああ、って急すぎるだろ!!しかも、金額増額してるし!!いきなりなんだよ。」


「はっ!!」


「なんだ、なんだ?」


「……。」


「……。」


「……。」


「おい、何だよ。」


「何でもない。」


「おいぃいい、何なんだよさっきから!!誘拐犯が会社名と名前を名乗るなよ!!オレオレ詐欺に引っかかるんじゃねぇよ!!」


「ふっ、これが俺のスタイルさ。何も隠したりしねぇ、隠すものなんざねぇ。ありのままが一番きれいだからな。」


「犯罪歴は今まさに真っ黒だけどな。」


「黒木商事の名前にぴったりだな。」


「やかましいわ!!ってか、これ会社の携帯なの?」


「ああ、当然だろ。携帯を買う金なんてないからな。」


「威張って言えることじゃねぇよ!!」


「とりあえず、金は用意しておけよ。じゃねぇと、娘がひどい目に遭うぞ。」


「だから、娘じゃ……。ちなみに酷いことって?」


「あん?あー、あれだよ、あれ。」


「どれだよ。」


「だから、あれだよ。」


「あれってなんだよ!!」


「おいっ、お嬢ちゃん。嫌いな食い物なんだ。」


「ピーマン。」


「あぁ、ちゃんと誘拐はしてるんだね。」


「つまりそう言うことだ。」


「だから、どういうことだよ!!」


「おっ、俺の口から恐ろしいことを言わせる気か?」


「お、恐ろしいこと……?」


「お嬢ちゃんのピーマン嫌いが直るまで、無理矢理美味しく調理したピーマンを喰わせてやる!!」


「しょーもな。」


「な、なんだとっ!!お前に分からないのか?」


「なんだよ。」


「ハンバーグに嫌いなピーマンが入っていた気持ちが。親から細切れだからいいでしょって言われた気持ちが。お前には分からないのか!!」


「滅茶苦茶しょーもねぇよ!!」


「くっ、ピーマン。苦い。」


「って、なんでお前がトラウマ刺激されてんだよ。」


「はっ、はっ。これで分かっただろ。ピーマンの恐ろしさが。」


「ああ、分かったよ。お前のポンコツさが。」


「ふっ……。」


「なんだよ。」


「ピーマンの恐ろしさを分からないとは、まだまだ子供だな。」


「ピーマンを恐ろしいと思っている方が子供だよね!!」


「ふぅ、やれやれ。」


「ちっ、なんだよ。」


「あっ、とりあえず仕事の時間だから、電話切るね。」


「やれやれの後に続くのは何なんだよ!?」


「じゃーね。」


「俺はお前の友達か!!」




―ガチャリ。




「あほらし。警察に電話しとこ。」








 翌日。ハチ公前。


―プルルルル、プルルルル。




「もしもし、黒木商事の白河ですぅ。」


「男の甲高い声きもっ。」


「お前はオレオレ詐欺の!!」


「もういいよ。それで。とりあえず、持ってきたけど。」


「嬢ちゃん。よかったな。父ちゃん、ちゃんと金を持ってきたってよ。ピーマン喰わなくて済んだね。」


「ピーマンとか、くそほどどうでもいいわっ!!」


「ふっ、やれやれ。」


「ちっ、だから何だよ。」


「私、白河さん。今、ハチ公前にいるの。」


「は?」


「私、白河さん。今、あなたの後ろにいるの。」


「何でメリーさん?」


「後ろを向いて金を渡すの。」


「はい。」


「「「確保~~~~!!」」」


「はっ!!騙したのね!!信じていたのに!!」


「えぇ、マジで何だったんだよ。」


「覚えてなさいよ~~~。」


「何故、おかま風なんだ……。」


「お兄ちゃん、だぁれ?」


「ま、そうだよねぇえええええ!!俺、関係ないじゃん!!」




―ガチャリ。

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