『気分は朝ドラ』⑧

荒野の高等遊民5号

第8話

第5章:ひろみ、怖気ずく(大学編)

Scene 2:大学初授業



授業初日。講義室には、全国から集まった

獣医志望の学生たちがずらり。


「うわぁ……みんな頭よさそう……」

「大丈夫だよ、ひろみは根性あるし」


「根性だけで授業についていけるかな…」

「そのときは俺が隣にいるから」

「うん、頼むね、渉」


その日の夕方。ひろみは寮の裏にある草原

に出て、トランペットを取り出した。

「ふぅ……」

夕焼けの中、ひろみの音色が静かに響く。

「瀬戸内の風とは違うけど……ここも、

            悪くないかも」


第6章:命の重さ、涙の草原

Scene:馬の出産実習


大学3年のある日。

「今日の実習は、分娩室での立ち会いだ」

教授の声に、教室がざわついた。


「本物の出産……」

ひろみは緊張で手が震えていた。

「大丈夫だよ、俺が隣にいる」

渉がそっと声をかける。


分娩室。

大きな馬が横たわり、苦しそうに唸っ

              ている。

「子馬の首に、へその緒が巻きついてる」

助手の声が響く。

「このままだと……子馬は……」


教授が静かに言った。

「親子とも助からないかもしれない

仕方ない、仔馬をあきらめよう」


「えっ……そんな……」

ひろみの目に涙が浮かぶ。

「なんで……なんで助けられないの……!?」

「ひろみ……」

渉が肩を抱き寄せる。

「これが、命の現場なんだよ」

母馬の中で仔馬は殺傷処分された。


その夜。

ひろみは寮に戻らず、駅までの道を泣きな

がら歩いていた。

(無理だよ……私には……)

スマホを握りしめ、実家に電話をかけよう

としたそのとき——


「ひろみ!」

渉が走ってきた。

「逃げるのか!?」

「……だって、怖いんだもん……」

「俺も怖いよ。でも、ひろみと一緒なら乗

り越えられると思った」


「渉……」

「一緒に戻ろう。俺たち、指切りしただろ?」

「うん」


翌朝。

ひろみは草原に立ち、トランペットを吹い

ていた。

その音は、昨日より少しだけ強く、優しく

響いていた。


「命って、悲しいこともあるけど……

それでも、向き合っていくって決めた」


つづく


挿絵あり(noteへリンク)

https://note.com/witty_gnu512/n/n38e145599a17

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