第4話暖かい紅茶
「……祐ちゃん?」
李星光(リー・シングアン)は思わずそう呼んでしまい、自分で自分に驚いた。
あの騒動のあとでM市を離れてからは、この子とのことはすべて過去の出来事になったのだと信じていた。
彼女の記憶の中の祐也(ゆうや)は、いつも細くて小さくて、黒ぶち眼鏡で顔の半分が隠れていて、
リュックの肩ひもをきゅっと短く締めて、歩くときには背中を少し丸めていて――
まるで、いつでも「ごめんなさい」と言う準備をしているみたいな子どもだった。
それが、レジカウンターの向こうに立つ少年は、すっかり別人のように変わっていた。
短く刈った髪は、うっすらとした黄みがかったブロンドに脱色されていて、
コンビニのまぶしい蛍光灯の下で、少しだけきらきらと目に刺さる。
背はもう一メートル八十近くまで伸びていて、制服の襟はきちんと一番上まで留められ、
肩のラインもまっすぐで、まるで「道ばたの雑草」から無理やり引っこ抜かれて、
一本の「人間街灯」に仕立て直されたみたいだった。
それでも表情は相変わらず淡々としていて、少し冷たそうに見える。
肌は驚くほど白くて、眼鏡がなくなった分、その目は前よりずっとはっきりとそこにあった。
――瞳の奥に、一瞬だけ浮かぶ戸惑い。
そのすぐ後から、抑えきれない喜びがふっとあふれ出て、
彼はあわててそれを押し込める。
残ったのは、落ち着かない光がぐるぐると回っている、透明な黒だけだった。
「……星光お姉さん?」
……
「おやすみなさい。」
彼女はくるりと背を向けて、アパートのほうへ歩き出す。
背中をコートの中に小さく丸めていて、実際の年齢よりもずっと小さく見えた。
コンビニの自動ドアが彼女の背中のすぐ後ろで閉まり、
あの少しばかりの暖房のぬくもりと白い光を、ガラスの内側に閉じ込める。
祐也は、その場に立ち尽くしたまま、彼女の背中が角の向こうに消えていくのを見送った。
さっき紅茶のペットボトルを渡したとき、ふいに指先が触れた――
あのかすかな体温だけが、まだ手のひらの中に残っている。
――
「もう、むちゃくちゃにお酒を飲んで問題を起こす歳じゃないからね。」
さっき聞いたその言葉を、彼は胸の中でそっともう一度繰り返す。
数年前と比べると、今、周りを巻き込んでしまいそうなのは、どうやら自分のほうになったらしい。
あの頃、自分の前に飛び出してきて、代わりに怒ってくれた中国人のお姉さんは――
今はあのときよりもっと、誰かに自分の味方でいてほしそうに見えた。
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