記憶回収屋 Reclaim ―消された真実―
梅酒
Prologue 序曲 ―Prelude―
2125年、東京・新宿。
高層ビルが立ち並び、無機質なネオンが昼夜の境を曖昧に塗り潰す街。その喧騒の片隅に、まるで影に紛れるように一軒の事務所がひっそりと存在していた。駅から徒歩十分ほどの雑居ビル、その三階。看板も掲げられていない、古びた木製の扉。行き交う人々は、その奥に潜む異常を想像することすらなく、足早に通り過ぎていく。
だが、その扉の向こうで行われている仕事は、決して「普通」と呼べるものではなかった。
記憶回収屋——Reclaim(リクライム)。
全人類の脳内に標準装備された「メモリーチップ」。人の記憶は日々、無意識のうちに記録され、クラウド上の政府データベースへとバックアップされる。それは本来、忘却という人類の弱点を克服するための、夢の技術であった。政府主導で義務化されたこのシステムは、認知症やアルツハイマーの根絶、犯罪捜査の効率化など、数多くの恩恵を社会にもたらしてきた。
しかし、光が強くなればなるほど、その影もまた、濃く、深くなる。
違法な記憶売買、記憶の改ざん、そして記憶の盗難。警察の管轄すら曖昧なグレーゾーンの犯罪が、静かに、しかし確実に蔓延していた。メモリーチップという便利な技術は、同時に新たな犯罪の温床ともなっていたのだ。
Reclaimは、そうした記憶犯罪の被害者を救う組織である。表向きは「データ復旧サービス」を名乗っているが、その実態は警察も黙認する裏稼業。盗まれた記憶を取り戻し、改ざんされた記憶を元に戻す——それがReclaimの仕事だった。
そして今日もまた、この小さな事務所で、騒がしい一日が始まろうとしていた。
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