下町魔導工房クラフトワークス

ヨモギ丸

プロローグ 下町魔導工房クラフトワークス。

――貴族の住まう土地から、ぐいーっと南に進みますと、段々と壁が雑なつくりになってまいります。それはいざ頑固おやじが殴れば壊れてしまうほどに。

そこは落ちぶれた商人と腕に磨きのかかった職人の住まう町、下町でございます。

そして、こちらがそんな下町一の頑固おやじの営む下町魔導工房、クラフトワークスにございます…


「誰が頑固おやじだ。クボルト!!」

「ひぃーっ!!」


怒鳴り声と共に、映像はジジジと音を立ててピチュンっと消えてしまった。

「何やってるんですか、師匠!俺はここを宣伝するための映像を撮ってたんですよ!?」

「宣伝するのに頑固おやじとかいう文言がいるのか?」

「いや…インパクトっすよ!イ・ン・パ・ク・ト!最近の客は目が肥えてますから、こういうところで差別化を図らないと客は来ないんすよ。」

「そんなもんで来る客なんかいらん。」


そう言いきったのは、このクラフトワークスの店長、ガルド=クラフト。短髪に髭を蓄え、その腕はそこらの木と比べても負けないんじゃないかってくらい太い。顔の傷のことは弟子の誰も知らないし、怖くて聞く気も起きない。


「でもさぁ、師匠。金はないとマズいべ?」

「なんだ、ラギア。ちゃんと買ってきたか?」


風呂敷を担いで、褐色の少女が入ってくる。長い赤い髪を束ねた大きな一つ結びは大きく広がっている。その露わになった腹筋にはニッチなファンが存在する。


「もちろのろんだよ!って…話そらさんでよー…このままじゃ材料も買えなくて店終わっちゃうぜー。クボルトの言う通り、宣伝はすべきだよー。」

「…一理あるか。」

「なんでなんすか!俺の時は、渋るのに…ラギアのことばっか甘やかして!」

「ごめんね、クボルト。ほら、あたし可愛いからさ?」

「師匠!可愛さで弟子を判断するなんてひどいっすよー!」

「可愛さなんかで判断しちゃねぇ。」

「じゃあ、何だって言うんすか!俺と、ラギアの間に何があるって言うんすか!」

「実力だ。」

「…くっ、確かに。」

「てなわけで、クボルトもなんか結果出してから、意見してねー。」

「ぐぬぬ…」


ラギアはクラフトの一番弟子であり、クボルトは三番弟子だ。そしてそこに、二番弟子がやってきた。


「今日は何を言い争ってるのさ?」


長い前髪、長い袖、長い丈、この暑い下町には似合わない服装の少年、クラフトの二番弟子である、タスパナ・レグド。


「んー?言い争いじゃないよー。一方的にクボルトが負けてるだけ。」

「違うっすよ、タスパナ。俺はただ、この店を宣伝しようとしただけっす!」

「どうせその方法が師匠の気にいらない感じだったんでしょ?」

「さすが、タスパナ!わかってるー!」

「違うんすよー!俺はただー!」

「クボルト、言い訳ばかりの男は、女にもてないぜ?」

「…俺がバカでした。すんませんした!」

「あははっ、そういう単純なとこあたしは結構好きだぜ。」

「僕も、クボルトみたいなバカがいてくれると、明るくて助かるよ。」

「うーん…それ褒めてんすか?」

「「うんうん、褒めてる褒めてる」」

「絶対嘘じゃないっすか!」


弟子たちが会話をしていると、師匠がハンマーを構える。あれだけ騒がしかった、三人がぴたっと鎮まる。


「お前ら、作業に入るぞ。」

「了解っす!」

「はーい。」

「今日もお願いします。」


ここは下町魔導工房クラフトワークス。ガルド=クラフトの経営する、小さな魔導工房である。今日も元気な弟子と頑固なおやじが、明るく楽しく営業しています。

壊れた魔道具を直したい人も、今の魔道具を改造したい人もぜひ、一度足を踏み入れてみてください!

店の前で自作の魔道具も売ってます。試遊できますので、その時は一言お声がけください。ハンマーの音がうるさくて聞こえないことがあります。そのときは、大きな声をおかけください。

以上、クラフトワークスイケメン一番弟子クボルト・キーアでした!

「嘘つきー。」

「バカは訂正しよう、君は学ばない大バカだ。」

「誰が…頑固おやじだ…。クボルトーー!!」

「ひぃーーーっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2025年12月27日 22:00

下町魔導工房クラフトワークス ヨモギ丸 @yomogu_bekarazu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ