ホームラン☆ボールガール!

遠峰 黎

ホームラン☆ボールガール!

「お疲れさまです! お先に失礼します!」

「お疲れさま! 18時からだっけ?」

「はい!」


​飯田遥、24歳。社会人二年目の会社員は元気よく返事をした。


都内の企業で、営業職として働いている。彼女の仕事は、自社サービスを通じて顧客に満足してもらえるよう、日々セールスを行うことだ。


​彼女の生活には、二つの明確な軸があった。一つは、営業職としてのミッションを果たすこと。もう一つは、その生活のすべてを潤す、熱狂的な情熱。


​プロ野球チーム「流星フレアーズ」の応援だ。


​午後5時30分。定時きっかりに、遥はデスクから立ち上がった。


足早にオフィスを飛び出し、遥はスーツのジャケットを脱ぎ捨てるように鞄に押し込んだ。彼女は少し早足で駅へ向かう。これから本格的に始まる帰宅ラッシュに巻き込まれる前に、スタジアム方面へ向かう電車に乗るためだ。遥の心臓は、すでにライトスタンドの熱狂を求めていた。


​彼女の斜めがけにしたキャンバストートには、フレアーズのキャップと応援タオル、そして年季の入った野球のグローブが収まっている。そのグローブこそ、遥の「叶えたい夢」への架け橋だった。


​遥の夢の原点は、幼い頃に父と一緒にスタジアムで野球観戦に来た、あるナイターの試合にまで遡る。


​その夜、フレアーズの外国人選手が放った打球が、ライトスタンドに飛び込んできた。ボールは遥の数列前の観客がキャッチした。大歓声の中で、その観客はグローブを天に掲げた。


​「お父さん、今の何?」

興奮冷めやらぬ遥に、父は満面の笑みで語った。

「あれはな、遥。ホームランボールっていうんだ。あのボールをキャッチすることができるのは、この外野スタンドで応援する人の特権なんだ。ファンにとって、一生の宝物になるんだよ」

父が言った「宝物」という言葉を、当時の遥は高価な記念品くらいの意味にしか捉えていなかったが、きっとすごいものなんだと漠然と理解した。


​そして、父は外野スタンドで観戦することが大好きだった。外野スタンドでは、選手が打席に立つ度に、応援団の演奏に合わせてファンは応援歌を口ずさむ。父は歌詞を完璧に覚えていた。


​だが、幼い遥は、応援歌を一緒に歌いたい気持ちがあったが、いつも歌詞が分からずに、途中で口を閉ざしてしまっていた。そんな遥を見かねて、父は、いつも遥の小さな肩を抱き寄せた。


そして、「この歌詞はね、『勝つぞ、打て!』だよ」と優しく教えてくれた。遥が照れ臭そうに歌い直すのが、二人の間だけの秘密のルーティンだった。


​そんな父は、遥が高校生の時、病で急逝した。悲しみを乗り越え、遥は父との思い出を大切に日々を過ごしていた。

それ以来、遥は父の分まで、誰よりも熱く、一途にフレアーズを応援し続けていた。


​遥には、父との野球観戦を通じて、いつしか願いが生まれていた。


それは、「ホームランボールを、このグローブで、この手で掴むこと」だった。


​夢の光を求めて、遥はオフィス街を駆け抜け、スタジアムへと向かう。彼女の足が、ライトスタンドとの距離を縮めるごとに、都内の会社員から熱狂的なフレアーズファンへと、徐々に姿を変えていく。


​遥にとって、ホームランボールを掴むことは、ファンとしての最高の勲章、父の言う「宝物」を手に入れることだと考えていた。

​しかし、その夢は簡単に手が届くものではない。


これまで本拠地のスタジアムで、ライトスタンドへ何試合も足を運んで応援してきたが、ホームランボールを掴む確率は、極めて低いと身をもって実感していた。


ホームランボールは、自分の近くに飛んでくることが大前提で、周囲の観客よりも一番早く掴む必要があった。そもそもホームランが出ない試合もたくさんある。


​『フレアーズの応援をしていたら、いつかホームランボールを捕れたらいいな』

​そんな宝くじの当選を祈るような気持ちで、フレアーズの勝利のために、応援を続けていた。


​そして、今年は、フレアーズにとって初の「デッドヒートシリーズ」進出がかかる大事な年でもあった。


​デッドヒートシリーズとは、レギュラーシーズン終了後、2つのリーグそれぞれ6チームのうち、上位3チームが進出して、リーグNo.1を決めるトーナメントステージのことだ。


そして、各リーグで、そのトーナメントを勝ち抜いた1位のチーム同士が、全12球団の王者を決める「No.1ステージ」に進出することができる。

​フレアーズは、このデッドヒートシリーズ(略して、「DS」と呼ばれる)に進出したことが一度もなかった。つまり、これまで3位以上になったことがなかったのだ。


​他の11球団はこれまでDSに進出したことはあったので、DSに出場経験のない、最後の球団がフレアーズだった。そんなフレアーズは、3位どころか、毎年最下位の6位が定位置、良くても5位という弱小チームだった。


​そんなチームでも、遥はフレアーズのことが大好きだった。父と最初にスタジアムで観戦したこともあるが、選手もファンも、みんな温かく優しい人たちばかりだったからだ。


​そのフレアーズは、今年4番のホームランバッター「佐々木翼」選手を中心に、打ち勝つ野球で、現在3位に位置して、初のDS進出に手が届くかもしれない成績を残していた。


シーズンも終盤となり、レギュラーシーズンは2試合を残すのみとなっていた。

​その2試合の相手は、「火の玉バイソンズ」。


フレアーズは、バイソンズに2試合のうち、1試合でも勝つことができれば3位が確定し、初のDS進出が決まるという状況だった。


​大事な2連戦。遥が駆けつけたこの試合も緊迫していたものになっていた。球場は、満員の観客が固唾を呑んで見守っていた。遥はライトスタンドの最前列の席で応援していた。


​試合の展開は、終始バイソンズがフレアーズを圧倒していた。そして、九回表のバイソンズの攻撃。


​スコアは5-2で、バイソンズ3点リードでの攻撃。フレアーズは裏の最後の攻撃が残っているものの、これ以上点はやれない、追い詰められた場面だった。


​ツーアウト満塁の場面。バイソンズの四番外国人選手が打席に立った。フルカウントから、フレアーズ投手の球を強振した。

​打球は一直線にライトスタンドへ。

そのままボールは、スタンドの看板に直撃した。

​満塁ホームラン。


​これでスコアは9-2。フレアーズの敗北を決定づける、あまりにも手痛い失点だった。

​マウンド上で膝をついて落胆するフレアーズの投手。球場全体が静まり返っている。


​そのホームランのボールは、看板にぶつかり、大きな音と共に跳ね返り、ライトスタンド最前列で応援していた遥の、まさに目の前の足元に転がってきた。


​『ホームランボールだ!』


​遥は驚いた。夢にまで見たホームランボールが、今、私の手の届く場所にある。

しかし、遥はそのボールへ手を伸ばすことができなかった。ただじっと見つめた。

​自分の応援するチームを、窮地に追いやるホームラン。長年の夢と、チームに対する想い。遥の中で、葛藤が渦巻いた。すぐにボールに手を伸ばすことが、どうしてもできなかった。


​遥が立ち尽くし、ボールへの手を伸ばしあぐねているうちに、横に座っていた学生らしき人が先に拾い上げた。


​「ホームランボールだ!よっしゃ!ラッキー!」

「それ、敵チームのホームランボールだからね」

「なんかまずいんだっけ?」

「こっちはフレアーズファンの応援席だからさ。あんまり喜ぶのは、さ⋯⋯」

「あ、そうなんだ。初めて来たから、よく分かっていなかった。でも、ホームランボール捕れて良かったわ!」


​学生らしき人は興奮して、友人たちと幸運を分かち合っている。彼はフレアーズのファンではなく、その更に隣の友人に誘われてたまたま観戦に来ただけのようだった。


​そんな光景を横目にしながら、遥は、静かにグローブを下ろした。

自分の心の中に生まれた微かな、でも決定的な違和感を自覚した。


​『私、どうしちゃったんだろう?』


​グローブを構えた遥の手の力は抜けた。彼女は周囲の喧騒から切り離されたように、ただ試合を見つめていた。


​これまで、遥の夢は「ホームランボールをゲットすること」だった。だけど、それは違ったのだ。

そのことを、今日、初めて気づかされた。


​『私、ホームランボールなら、何でも良かったわけじゃなかったんだ⋯⋯』


​自分の長年の夢は、単なるホームランボールの収集ではなかった。父と分かち合った「フレアーズへの純粋な愛」と「勝利への願い」だった。そして、フレアーズファンのみんなと喜びを分かち合うことだったと気づかされた。


​結局、裏の攻撃ではフレアーズは点を奪えず、この試合は9-2で敗北した。


​そして迎えた、運命のシーズン最終戦。

フレアーズは、「火の玉バイソンズ」との試合に臨んでいた。


遥は昨日と同じように、ライトスタンドへ駆けつけていた。

​前日の試合を落としてしまい、この最終戦が、フレアーズにとってまさに天王山だった。


スタジアムの空気は、これまで経験したことのないほど重いものだった。それでも、勝利を信じるファンの想いは熱かった。

​遥はいつもの定位置、ライトスタンドにいた。もちろん、愛用のグローブも傍らにある。


​佐々木翼選手は前日の試合、最終回にファウルボールを追ってフェンスと激しく激突しながらキャッチしていた。そのため、この試合は大事をとって、スタメンではなく、代打での待機となっていた。

彼が怪我をしたのではないかと危惧するスポーツニュースの報道もあり、ファンにとって大きな不安要素だった。


​そして、試合開始の直後、遥の隣の席に、小さな男の子と、その両親が座った。男の子は五歳くらいだろうか。大きなキャップを被り応援している。

​私は、打席に立つ選手の応援歌を歌い、エールを送る。


​「お姉ちゃん、応援、すごく上手だね!」


男の子は、目を輝かせながら遥に話しかけてきた。男の子は、佐々木翼選手の熱烈なファンだという。男の子の名前は「リク」君。この日が初めての野球観戦のようで、リク君の両親もにこやかに挨拶をしてくれた。


「翼選手のバッティング、かっこいい!」

遥は、リクの純粋な憧れの眼差しに、思わず笑みがこぼれた。


​両チームは、一進一退の攻防を続ける。

フレアーズの選手が打席に立つと、遥はリズムを取り、声を出す。隣を見ると、リクも一生懸命にコールを真似ていた。

だが、幼いリクはコールの途中で歌詞が曖昧になり、口を閉ざしてしまった。

「勝つぞ⋯⋯」

リクはコールを止め、困ったように父親を見上げた。リクの父親は優しくリクの肩に手を置いた。

「『勝つぞ、打て!』 だよ。一緒に歌おうか」

「うん!」


​父親から歌詞を教えてもらい、一緒に歌っている。リクはすぐに顔を輝かせ、父親の声に合わせて、最初よりもずっと大きな声でコールを歌い直す。

「勝つぞ、打て!」


​その光景が、遥の胸の奥を激しく揺さぶった。頭の中に、父との思い出が鮮やかに蘇る。自分が幼い頃、歌詞が曖昧になって黙り込むと、父が優しく肩を抱いて教えてくれた。その時の父の顔は、リクの父親と同じくらい、穏やかで、優しかった。

​遥の中で、リクと幼い頃の自分の姿が、完全に重なっていた。遥は、父と一緒に来たスタジアムのことを、思い出さずにはいられなかった。


​試合は膠着し、0-0の同点のまま九回裏、フレアーズの攻撃を迎える。満塁の場面。スタンドは異様な緊張感に包まれていた。


​そして、監督が告げた。

「代打、佐々木!」


​その瞬間、スタジアムの空気が弾けた。悲鳴のような歓声がスタンドを揺らす。佐々木翼がベンチから出てくるだけで、球場に期待が充満していた。


​佐々木選手はバットを構える。遥は呼吸を忘れ、祈るように佐々木選手の応援歌をリズム良く歌った。

「つ!ば!さ!スーパー!スター!」

リクもまた、父親の教えの通り、歌詞を間違えることなく、力の限り佐々木選手を応援していた。


​カウントは3ボール2ストライク。フルカウント。勝負の一球。

バイソンズ投手が渾身の一球を投げた。佐々木翼は、鋭くバットを振り抜く。


​乾いた快音が、スタジアム全体に響き渡った。


打球は、ファンの願いと希望を乗せて、夜空へと高々と舞い上がる。そして、その美しい放物線は、遥のいるライトスタンドへ、遥の待つ席へ、一直線に向かってくる!


​遥は、愛用のグローブを構えて、落ちてくる球を迎えた。

硬い球の感触が、グローブを貫き、遥の手に伝わった。


掴んだ。


​遥の長年の夢だった、フレアーズの、そして佐々木翼の打ったサヨナラ満塁ホームランボール。

遥はついにその手で掴んだのだ!


​狂喜乱舞するスタンド。勝利の熱狂。初のDS進出。グラウンドの選手たちは、ホームランを打った佐々木翼を待ち構える。

スタンドのファンたちは、初のDS進出に、涙を流しながら、抱き合う人たちもいる。


​遥の目からも、自然と涙が溢れていた。

幼い頃、父に連れられて初めてスタジアムに来たあの日からの、すべての願いが今、このグローブの中に詰まっている。


​歓喜に震えながら、遥は隣を見た。リクが、信じられないものを見るように、目を最大限に輝かせ、遥のことを見つめている。

「やったね!お姉ちゃん!」


​その瞬間、遥は全てを悟った。父が言っていた、何物にも代えがたい「宝物」の意味を。

​遥は、迷うことなく、リクの小さな手の上に、ボールをそっと置いた。

「リク君にあげるよ。翼選手が打ったホームランボールだよ」


​リクは数秒間、声も出せずにボールを見つめた後、満面の、この世のすべてを手に入れたような笑顔で顔を上げた。

「……ありがとう、お姉ちゃん!」


​それを見ていたリクの父親からは、感謝の言葉を受け取った。

「ありがとうございます!実は今日、リクの誕生日だったんです! 最高のバースデープレゼントをありがとうございます!」と、感極まった様子で、母親と一緒に、遥に頭を下げた。


​遥は、最高の場所、最高の瞬間に立ち会えたことに、胸がいっぱいになった。

​リクの屈託のない笑顔と、リクの両親が送ってくれた心からの感謝の眼差し。その瞬間、遥の胸にこみ上げてきたのは、ホームランボールを掴んだ時以上の満足感だった。


​『私、最高の瞬間に立ち会えたよ。宝物の意味、やっと分かったよ。ありがとう、お父さん』


​勝利の熱狂は、遥の中で、静かで温かい感謝へと昇華した。


​試合終了後、遥がライトスタンドで帰りの荷物をまとめていると、スーツ姿の男性が息を切らせて近づいてきた。

​「すみません! 先ほど、ホームランボールを男の子に譲られていた方ですよね?」

「あ、はい。そうですが……」

「私、フレアーズの球団職員の者です。実は、お願いがありまして……」


​どうやら、ホームランボールをキャッチし、それをリクに手渡す遥の姿は、球場の大型ビジョンに大写しにされていたのだ。それで、遥に声をかけてきたという訳だったようだ。

​「これから少しだけお時間をいただけませんか? 実は、会わせたい人がいるんです」


​球団職員に案内され、遥は関係者専用の通路に向かった。なんだろうか、心臓の鼓動が早くなる。


​向かうと、そこにはまだユニフォーム姿のままの、「佐々木翼」選手が立っていた。


「初めまして。佐々木翼と申します。今日は応援、本当にありがとうございました」

佐々木選手は、まっすぐな瞳で遥を見て、深々と頭を下げた。


​遥は驚きで一瞬声が出なかったが、すかさず自己紹介をして頭を下げた。

​「試合中の映像を見ました。あのボールは、たしかに僕が打ちました。でも、飯田さんがボールをキャッチして、あの男の子に譲ってくれたことで、僕らの勝利が、こう、なんというか、もっと大きな、人々の心に残る大切な瞬間になった気がします。野球の素晴らしさを改めて感じました」

遥は驚きと感激で声が出ない。憧れのスター選手が、自分の目の前にいて、自分に感謝しているのだから。


​「ホームランボールは飯田さんの手から男の子にプレゼントされましたが、代わりと言ってはなんですが、僕からの感謝の気持ちです。迷惑でなければ受け取ってください」

​佐々木選手はそう言って、一本のバットを差し出した。


「これは……さっきの?」

「はい。ホームランを打ったバットです。かさばるし、迷惑でしたか?」

​バットのヘッド部分には、佐々木選手の直筆サインと、『感謝』の文字が力強く書かれている。


​遥がおずおずと受け取ると、そのバットはずっしりと重く、そしてまだ試合中の熱が残っているかのように温かかった。

​「ありがとうございます……! 一生の宝物にします!」


​遥からもお願いをして、そのバットを持って佐々木翼とツーショット写真を撮ってもらった。彼女の顔は、さっきリクにボールを譲った時と同じ、満面の笑顔だった。


​スタジアムを後にし、職員の方に丁寧に包装してもらったバットを抱きしめながら、遥は夜空を見上げた。


​翌朝、オフィスに出社すると、遥はさっそく話題の中心になった。


​「飯田さん、見たよ、ニュース! ホームランボールを子供にあげるなんて、君は素晴らしいね!」


遥の部署の部長は、応援チームこそ違うが、遥と同じく熱心な野球ファンだった。


​遥は知らなかったのだが、ホームランボールをリクに手渡す遥の姿は、感動的な瞬間を捉えた映像としても当日中継されていた。

更に、その日のスポーツニュースで、フレアーズのサヨナラ勝利、そして球団創設以来初のDS進出とともに、美談として取り上げられていたのだ。

それだけでなく、映像を切り抜いた短い動画は、瞬く間にSNSでも拡散された。


​『#フレアーズ』

『#佐々木翼』

『#サヨナラホームラン』

『#外野の女神』

『#粋なファン』

『#ホームランボールガール』


​遥は意図せず、「ホームランボールガール」として、野球好きの一部の界隈で注目されていたのだ。


​部長は朝一番、感動した面持ちで遥に告げた。

​「あの瞬間、本当に感動したねえ。フレアーズの勝利も良かったしね。野球興味ない娘も、あの瞬間の動画、SNSで私に見せてくれたよ」


​遥は急に恥ずかしくなった。そんなことになっていたなんて。


​一方、新入社員の後輩は、少し現実的な感想を漏らした。

「飯田さんって、良い人だと思うんですけど、ボールそのまま譲っちゃうなんてお人好しですよね。正直、僕ならネットオークションとかで売っちゃうかもです。高いものだと、何十万円にもなるって聞きますし...」


​遥は笑って答えた。

「まあ、そういう人もいるけどね。でも、私も、最初からあげるつもりで捕ったわけじゃないんだよねえ。横の男の子に、咄嗟にあげてしまってさ」

遥の言葉に嘘はなかった。

​「それに、もっと良いものゲットできたし」


「え、なんですか? それ?」

「君もスタジアムに来たら、いつか分かるよ」

「それなら、今度みんなで行きましょうよ!」

部長も話に乗ってきた。

「お、そうだな!一杯だけならスタジアムでビール奢るぞ!」

「そろそろ仕事に戻りますよ」

遥は、笑いながらパソコンと向き合った。


​そして、ある休日のお昼のこと。

遥の自宅のリビングには、佐々木選手からもらったサイン入りのバットと、ツーショット写真が大切に飾られている。その横には、幼い頃に父とスタジアムで撮った写真。


​いよいよ今日から、敵地で始まる、デッドヒートシリーズ。球団創設以来、初の挑戦が始まる。


​「行ってくるね」


​敵地のドームで始まる、大事な試合に向けて、玄関のドアを飛び出した。


​ライトスタンドの女神、ホームランボールガールの情熱は、決して終わらない。


​(了)





あとがき


​この物語はフィクションであり、実在の人物、事件、団体とは一切関係ありません。

この作品を読んでくださった皆様に、深く感謝申し上げます。

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