第2話「熱が出た日」
今日は大事なプレゼンの日だ。昨夜は気持ちが高ぶってよく眠れなかった。ワタシが一生懸命に取り組んできた仕事。大勢のクライアントを前に新商品を売り込む。ここで契約につながれば、課のノルマも達成できて今までの努力は全部報われる。ワタシ、頑張ってきたもんね。
だけど、こんな時に限ってマサトが熱を出すんだ。39度もある。
どうしよう。
とりあえず保育園に欠席連絡だ。お医者さんは9時からだけど、その後はどうしたらいい? 病児保育施設はあるにはあるけど、家からはかなり遠い。ああ、仕事の方をキャンセルするしかないんだな。マキちゃん、入社半年では荷が重いけど、ワタシの代わりにプレゼンしてくれるかな。
夫と別れて丸一年。3歳の子供を抱えて仕事と育児を頑張ってきた。だけど、そろそろ限界を感じている。子育て支援とかいろいろなサービスが出てきたのはありがたい。だけどみんな痒いところには手が届かないんだ。シングルマザーは身も心もボロボロだよ。
お医者さんによればインフルエンザだってさ。これから5日間、ワタシも会社をお休みするしかない。課長が何か言いそうだな。まったく。マサト、ワタシの努力を返せ。お母さんをどれだけ邪魔すればいいんだ。ワタシは涙が出てきた。
元気が取り柄のマキちゃんは快く代理を引き受けてくれた。ああ、でもこれって、契約とれたらマキちゃんの手柄になるんだろうな。ほんと、悔しいよ。
布団を敷いてマサトを寝かせた。氷枕を用意した。薬を飲ませて、熱は少しだけど下がった。ほっぺが真っ赤だ。マサトも苦しいんだろうな。マサトが悪いわけじゃない。お母さんの邪魔をしようなんて思って熱が出たわけじゃないもんね。たまたまタイミングが悪かっただけだ。ごめんね、マサトを恨んだりして。お母さんも完璧な人間じゃないんだ。
ご飯は卵を一個割入れたお粥にした。食べてくれるかな。いい機会だ。これからの5日間、マサトとべったりの生活をしよう。ワタシはそう心に決めた。今までマサトに寂しい思いをさせてきたこと、この5日間で全部取り戻すんだ。ワタシもマサトの隣に布団を敷いて横になった。熱があるのに、マサトはなんだか嬉しそう。マサトの顔を見ていたら、プレゼンなんてどうでもよくなった。結果なんて知らんがな、だ。
5日間は、マサトがくれた充電期間だ。そうしたら、また前を向いて歩けそうな気がする。
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