クラブトーナメント

ヨモギ丸

プロローグ

厳かな空気の流れる、生徒会室。各部門の代表者が集まり、四角く繋げた机の周りを囲っている。

そして、生徒会長は立ち上がり、厳しい顔でこう言った。


「えー、では、会議の結果、予算は運動部に93%、文化部に7%でどうでしょう?」

「賛成です。」

「さんせー。」


会長の隣に座る、副会長と書記が賛成と言ったことで、その他の生徒たちも次々に賛成だと発言していく。そして残された一人、唯一の文化部である男、飯島雄介が立ち上がった。


「このままでは、多数決に勝つことができません。しかし、認めてしまえば我々文化部はまともに活動することができません。」

「自費で活動すればいいじゃーん。」

「お言葉ですが、皆さんはそんなことができますか?遠征にも、大会にも、道具にだってお金がかかります。」


普段、あまり意見を言わない飯島の言葉に生徒会室はざわざわとしている。


「そこで、私はここに、部活大将戦を申し込みたいと思います!」


部活大将戦とは、この県在賀田谷ありがたや高校校則第112条2項に認められている制度である。運動部、または文化部に所属している生徒の内、生徒会に所属している生徒の申し出によって開催が可能である。運動部、文化部の互いが10個ずつ部活を出し合い、カードを決めて戦わせる恐ろしい行事。


勝った側には、一つ好きな校則を追加できる権利が与えられる。もし負ければ一生奴隷になることもありえるのだ。


「ふっ…面白いことを言う。」

「か、会長、まさか受ける気ですか?」

「受けるも何も、校則に従うならば、この時点でもう始まっている。やはり、飯島。君をこの生徒会に入れた私の目に狂いはなかったよ。いい勝負をしよう。」

「はい、お願いします。」

「では、これにて今日の生徒会を終了とする。銀、運動部の部長を集めなさい。」

「はい、わかりました。」


こうして、生徒会が終わり、飯島だけが外に押し出された。すると、待っていたかのように、男が三人寄ってくる。


「ど、どうだった!飯島君!」

「いけたか?いけたかー?」

「ふっ…」


飯島はドヤ顔でグッジョブと手を出す。


「うおー!!ナイスじゃ!飯島!」


細いのと、太いのと、小さいのは、飯島を胴上げする。


「三人とも、今すぐ部長たちを集めてくれ、もちろん同好会の奴らもだ。」

「「「ああ!」」」


飯島は静かに歩き出し、小さくガッツポーズをする。

――在賀田谷高校は、どこの学校と比べても圧倒的に文化部が軽視されている、いや、蔑視されている学校だろう。

その最たる例は部活と同好会の量だ。運動部が、新設されたラクロス同好会以外は全て部活なのに対して、文化部は、古くからある吹奏楽部、科学部、日本文化部、放送部以外は、全て同好会である。

部活には、同好会よりも優先的に部屋の使用権が与えられる。更に、部費は部活にしか与えられない。そのため、同好会は学校側から出される課外活動交付金と自腹でどうにかしているのだ。そして、その交付金の割合は、運動部がほとんどを占める生徒会が決めるというのだから、信じられない話だ。

そのため、文化部の生徒たちは肩身の狭い思いをしている。


だからこそ、この度開催される部活大将戦。負けるわけにはいかないのだ…


「だろ!お前たちー!!」


―――うおーーー!!!


部長を集めたはずの教室にはほぼ主要な文化部のほとんどが集まっており、その熱は教室を揺らした。

「会長、発表されました。これが、部活大将戦に出る部活です…。」


副会長の出した表に、会長は薄く笑みを浮かべる。


「ふふ…いいね飯島。面白い。」


運動部

・サッカー部

・バスケ部

・バレー部

・テニス部

・山岳部

・剣道部

・柔道部

・ラグビー部

・野球部

・水泳部


文化部

・科学部

・日本文化部

・落語研究会

・演劇同好会

・将棋同好会

・美術同好会

・催眠術研究会

・漫画研究会

・太鼓同好会

・吹奏楽部


『これより、部活大将戦を始めます。運動部も、文化部も、頑張ってください。』


放送部の二年、織元おりもとはじめは文化部として仲間を応援しているが、彼は公平な実況を忘れることはない。

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次の更新予定

2025年12月29日 22:00

クラブトーナメント ヨモギ丸 @yomogu_bekarazu

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