「元素の騎士 英雄伝」

火神の子

第1話 晴れの日の約束と闇の扉



2022年4月7日、晴れ。


「俺の名前は神炎悠真、15歳。一見平凡な高校生だ」


「もちろん、俺の実力は俺だけが知っている。前世は半神級の異能者で、火の法則を操る力を持っていた」


「だがこの世界では、かつていた火の星のエネルギー源がないため、5年経ってもまだC級の火系異能者にとどまっている」


「おはよう、小真」


青いショートヘアの少女が部屋に入ってきた。この子は俺の幼なじみ、静水日和。小学から知っている、優しくておとなしい女の子だ。


「長年知り合ってるけど日和ちゃん、入るときはノックしてくれない?」


「ごめんね。でも小真なら平気だよね?」


日和が舌を出してきた。


「まだ開校時間じゃないし、急ぐこともないのに」


俺は目をこすりながら時計を見ると、今は午前6時32分だった。今日は俺たちが通う新東京天の高校の開校日だ。


日和はすでに天の高校の赤い制服を着ている。元気なデザインが優しい少女に合い、独特の魅力を放っている。


「ほら日和、もう少し眠らせてくれないか?」


普段は毎朝10kmランニングする習慣があるが、今日だけは休みたかった。


「だめよ、小真」


少女は無理やり俺を起こしてくれた。


結果、午前7時04分には赤い制服を着替え終え、日和に引っ張られて彼女の家へ向かった。食卓を見ると——ご飯、味噌汁、目玉焼き、それに小鉢料理が並んでいた。


「手羽先を追加してくれない?」俺が提案すると、日和は呆れたような目で俺を見つめた。


「悠真、誰が朝からそんなもの食べるの?」


「こんな平穏な時間も悪くないな。これからも日和と一緒に、平凡で幸せな生活を過ごそう」


俺は目の前の少女を見ながら、思わず彼女の頬に手を伸ばした。


「え?」日和は困惑する表情を浮かべた。


「あの……日和ちゃんが可愛すぎて、つい……」


突飛な行動に気づいた俺は、照れくさく天井を見上げるしかなかった。


「大丈夫よ……小真。私も小真のことを同じように思っている」


日和は前に進んで俺を抱きしめてきた。


「行こう」


彼女が俺の手を握り、午前7時30分には学校へ向かう道を歩いていた。道中にはすでに天の高校の生徒たちの姿が見え始めていた。


「俺たちは一年B組だよね?」俺が日和に尋ねると、彼女は前を歩きながらうなずいた。B組の教室に入ると、俺の学籍番号は8番、日和は24番だった。それぞれの席を見つけると、一列6席の配置で俺は2列目に座ることになった。


「日和、君の席は後ろの窓辺だね」


「後ろ窓辺は主人公の座」とよく言われているが、なんだか日和が主人公みたいだ。日和もそのネタを知っているらしく、微笑みながら黙っていた。


開学式では、一人の紫髪の少女が際立っていた。彼女の名前は雷鳴千藤、今期の入学者の中で最も優れた成績を収めた新生代表だ。彼女が何を話しているかは全然聞き入らなかったが、8番の俺はB組の隊列の前列に立っていたため、のんびりした姿が彼女に見られてしまった。


雷鳴千藤の眉が微かに寄ったが、すぐに緩んだ。


「しまった、こいつに恨まれた」


誰も知らない開学式で、生徒のリーダー的存在である彼女を怒らせるなんて、最悪の展開だ。


「今日の放課後、謝罪しに行こうか」俺は無念に肩を落とした。


……


午前11時45分、突然の疲労感に襲われ、俺はうとうと眠りに落ちていた。


「闇の扉が開かれた……神炎君、助けが必要だ……爆炎の騎士よ……」


「誰?誰が話している?」


猛然に目を覚まして窓の外を見ると、さっきまで晴れていた空は烏雲に覆われ、高さ20メートルの空中には直径5メートルの漆黒な穴が現れていた。多くの生徒たちは慌てて逃げ出していた——こんな現象は人間の理解を超えるものだった。


「これは何だ?」俺は闇の元素のエネルギーを感じ取った。その力はB級の闇系異能者に近いレベルだ。


「少なくとも日和を守ることはできる」


日和はコンビニで昼ご飯を買いに行っていた。俺たちはいつも交代で、一人が買いに行く約束だ。


「日和、大丈夫か?もし学校にいないなら戻ってこないで。ここに異常現象が起きた!モンスターが出た!」


「異常現象?小真、君は大丈夫?」


「今はまだだ。とにかく家に帰れ。俺は平気だ」


電話を切って漆黒な穴を見ると、その中から身長2メートル、全身黒くて顔の恐ろしい狼の頭を持つ怪物が現れた。


「まさか新しい世界に来ても異能獣がいるのか?」


俺は額に手を当てた。逃げるのが一番だ——C級異能者の体能力でも、俺は既に人間の限界を超えている。


「ここから階段を下り、塀を越えれば逃げられる」


狼頭の異能獣は既に攻撃を開始し、血走った瞳で獲物を選んでいた。


「よし、3分以内に学校から逃げ出そう」


俺はもう実力を隠さず、秒速15メートルの速さで走り出した。


「あいつは何してるんだ?」


狼頭の異能獣の前に立ちはだかっている雷鳴千藤の姿を見て、俺は驚いた。異能獣に倒された生徒は既に10人以上いて、状況は非常に危険だった。


「バカか?人間が異能獣と戦う?」


俺は首を振った。こんな無謀な行動は絶対しない。俺はまだC級異能者の上限に達していない、中程度のC級レベルだ。


「私は新生代表だから、生徒たちを守る義務がある」


雷鳴千藤は侍刀を握り、体が微かに震えているにもかかわらず、狼頭の異能獣の前に立ち続けていた。異能獣は自不量力な人間の女を見て、嘲笑うような表情を浮かべた。


「无知な人間と、ゆっくり遊ぼう」


異能獣はただ軽く爪を打ちつけた。少女は刀を振り下ろしながら叫んだ。


「一字斬り!」


だが残念ながら、彼女の斩撃は単なる人間の攻撃に過ぎず、異能獣の攻撃は元素攻撃だった。わずかな衝突で少女の刀に大きな亀裂が入り、彼女の体の数カ所から血が渗み出した。


彼女は血まみれに倒れながらも、右手に刀を握り、左手で体を支えてゆっくり起き上がった。


「私……まだ戦える」


亀裂だらけの刀と全身血まみれの少女が、狼頭の異能獣と対峙していた。少女が弱すぎたため、異能獣はもう興味を失い、一撃で彼女を殺そうとした。


「人間……死ね」


異能獣は低い声を発した。


「ったく」


ついに我慢できなくなった。普通の人間の少女が立ち上がるのを見て、異能者の俺が傍観しているのは恥ずかしい。


「火炎拳!」


俺は暗闇から飛び出し、異能獣の顔面に一撃を入れた。不意打ちが唯一のチャンスだ。俺はさらに火の能力を発動させた。


「火炎——連打!」


人間を超える速さで拳を振り回し、オレンジ色の炎を両拳に纏わせた。だが異能獣は中程度のダメージしか受けていないことがわかった。


雷鳴千藤は呆然と立っていた。朝ののんびりした生徒が、火を使えるなんて思いもしなかった。


火の高熱が異能獣の顔を焼き付け、苦しそうに唸らせていた。


「火系の人間……死ね!」


黒い光芒がきらめき、異能獣の両眼から黒いレーザーが発射され、俺に向かってきた。俺は炎を盾にして前に出したが、手遅れだった。


「シュリューッ!」


闇のレーザーは炎の盾を打ち破り、俺の左肩付近を貫通した。


「爆炎烈弾!」


直径3メートルの巨大な火球を手に召喚し、異能獣の正面に打ちつけた。異能獣はこの一撃で7~8メートル後ろに吹き飛ばされたが、明らかに重傷には至っていなかった。


俺は傷口を顧みず、呆然としている雷鳴千藤を見た。


「まだ待ってどうする!逃げろ!」


俺は彼女を抱き上げて急いで学校から逃げ出した。他の生徒たちには、もう手が届かなかった。


その頃、別の場所で——


「徹也、天の高校の方に闇獣が現れた。行ってくれ」


通信機から声が漏れた。


「俺は今配達中だぞ!斉木那家伙にやらせれば?」


上風徹也、24歳、配達員。だが容姿が極めてイケメンなため、妻は家柄の良いエリート女性だ。


「また活躍する時間か……疾風の騎士、出撃!」


上風は変身ベルトを取り出し、全身が靑い疾風に変わって瞬く間に姿を消した。


数分後、道路で神炎悠真と上風徹也が向かい合ってすれ違った。


「元素の力?」上風は俺を興味深そうに見たが、この高校生の持つ元素力はそれほど強くなかった。


「これはA級以上の異能者の力だろ……」


俺もこの疾風の中に含まれる力を感じ取った。


意識を失った雷鳴千藤を抱いて診療所に着くと、看護師が言った。


「23000円です、ありがとうございます」


神炎悠真:(ㅍ_ㅍ)


やはり雷鳴千藤の傷は重かったらしい。


「狂犬病ワクチン20000円、包帯交換3000円です」


俺は一旦代金を立て替えてから診療所を出た。まだ昼ご飯を食べていなかった。


看護師は肩に傷がありながらも平然とした俺を見て、驚いた表情を浮かべた。


「あなたの傷も包帯しませんか?」藤原看護師が尋ねると、俺は答えた。


「これ?俺には絆創膏で充分だ」


実際、絆創膏も貼らなくても平気だ。これは重伤とは言えない。


……


上風徹也が天の高校に到着すると、既に数百人の生徒が倒れていた。


「誰も殺していない……闇の扉を通じて生徒たちの生命力を奪おうとしているのか」


上風は黒い穴を見つめ、長さ20メートルの風刃を切り裂いて扉を破壊した。


「つまらん……たかがC級の闇異能獣」


上風は靑い短刀を取り出し、再び体を疾風に変えた。自分を強いと思っていた闇獣は、上風の一太刀で瞬く間に灰になった。

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