魔女はオトコノコ! -5/5-

煙が晴れて見えたのは大人の女性である。魔女とはいえ高校生の音夢では平日は店に出られない。故に使い魔に人型を取らせて店番を頼んでいるのだ。


「ホント?どれどれ」


音夢はいそいそと商品棚のチェックを始める。何を置いていたかは作った本人だからわかっている。


「痛み止めはいつも売れ行きが良いね。花粉症の薬はピークが過ぎたかな?作るの少し抑えていこ。あ!化粧品結構売れてる!嬉しい〜♪」


減った商品の補充も勿論音夢が作る。だから在庫の移動数のチェックは重要だ。作り過ぎれば廃棄も出るし、少ないと困る人が出る。

早速作業場に向かい、壁に掛けてあったローブを着る。


「……ねぇ。本当にローブ変える気ないの?」


手を洗う音夢に呆れと諦めの悪い足掻きな声音で問う黒猫。その目は音夢のローブ、の色に着目している。


「らいよー」


うがいをしながら答える音夢は全く意に返した様子は無い。因みにうがいの仕方は女の子の様に可愛らしいものだ。


「だってフォーマルなのって真っ黒過ぎて可愛く無いんだもん☆」


うがいを終わらせクルリと振り向き様にパチンとウインクをかます音夢である。

振り向いた事で翻るローブの色は若草色。大凡魔女らしさはカケラも見当たらないのである。フォーマルな使い魔である黒猫が渋るのも無理はない。


「あらそう。なら私も真っ黒々で可愛くないのね」


気分を害した黒猫はソッポを向いて頬を膨らませた。

それに慌てる音夢。


「え?ノアールは美人だよ!僕は服の事言ってるの〜!ほら!ノアールも金の縁取りの赤いリボンに鈴が付いてて可愛いでしょ!?」


音夢に言われて黒猫・ノアールは自身の身形を見る。今は人型故に服を着ている。店の雰囲気に併せてアンティーク調の服をピシリと着こなし、その首元には猫姿の時から変わらずあるリボンが可愛さを演出していた。

猫とはいえノアールは女の子。主に美人だ可愛いだ言われて嬉しくなる。ちょっぴし赤めた頬から、今は消えているはずの髭がそよいで見えた。


「……まあ。可愛いのは同意するわ」


そっぽを向いたノアールは、それ以上言及する事はなかった。

さてはてノアールの機嫌が治って一安心な音夢は今から仕事である。大きな窯と中位の窯と小さな窯が並ぶ場所に立った。


「それじゃあ今日も元気に魔法薬作りをしよ〜♪」


全く仕事をしようという真面目さを感じさせない軽い調子で、音夢は窯に手順に従い材料を投入していくのであった。

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魔女はオトコノコ! 蒼穹月 @sorazuki

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