忘れられたものの終着駅【短編小説】

くす太【短編小説作ってます】

忘れられたものの終着駅【短編小説】

忘れられたものの終着駅。

世界の誰もが忘れてしまった物が流れ着く場所が、この世界の端にあった。


暗くて殺風景な場所だった。

そこには、ありとあらゆるガラクタが流れ着いてくる。

ただの道具も流れ着いてくることもあったが、大部分が人が作ったまま忘れ去られてしまったものだった。

子供がお菓子の空き箱を積み上げて作った小さなロボット。誰にも読まれないままなくなってしまった手紙。ボロボロのパソコンには、書きかけのまま忘れられてしまった物語のデータが詰まっている。

どれもどこか無機質で、温度を感じさせないモノばかり。

皆ボロボロだった。


ある時、そこに一人の少女が流れ着いた。

そこには少女以外誰もいない。

そこにたどり着いたとき、少女はここがどこかわからず、ただ一人で立ち尽くしていた。

孤独な空間にはガラクタしかなく、誰も何も教えてくれない。

それでも彼女は少しずつ、この場所の事を理解していった。

ここは皆に必要とされなかったものが流れ着いた場所で……そして、そこに自分もやってきた事。悲しい真実を、一人理解した。

心の奥がひんやりと冷えていったが、それでもいいと思えた。

自分がここに居ても、困る人は誰もいないのだから。


少女は、この場所に流れ着くものを整理していった。

どんなガラクタでも、拾い集めては眺め、整理してまとめておく。

パソコンにどんなものが流れ着いたのかを記録していく。

彼女はほとんどの時間を、そうして過ごしていた。

ここに流れ着くものはみんな、もはや意味を持たないもの。

誰にも必要とされていないもの。

彼女はそのことを理解していたが、それでもすべてを記録に留めようとした。

忘れ去られるのが、何よりも寂しく悲しいことだということを、彼女は知っていたからだ。

新たに流れ着いたものはみんな、記録した。どんな姿かたちだとか、触った感触はどうとか……事細かにしっかり記録していた。


少女は想像するのが好きだった。

このお菓子箱のロボットはどんな戦いを繰り広げていたのか?どこかの銀河を守るスーパーロボットだったかもしれないが、夏休みの自由工作で適当に作られたものかもしれない。

この手紙は誰に渡したかったものか?伝えるのが怖くてしまい込んだ想いなのか、伝えない方が幸せになると思って隠してしまったのか?もし、その人に想いが届いていたらどんな言葉を返してくれたのか?

この書きかけの物語は、何を伝えたくて書かれたものなのか?主人公の少年は、この後どんな冒険をして、どんな人と出会うのか?

少女は流れ着くものみんなにそんな想像を巡らせていた。ここに流れ着いたものが生まれた意味がきっとあると、静かに想像をしていた。


そうして過ごして、どれだけの時間が経ったか。

いつしか少女は、そこに流れ着いたもの全てを記録しきった。

流れ着いたもののことは、少女が全部覚えていた。忘れられたまま眠り続ける、寂しいものは皆なくなった。

自分がいるかぎり、皆忘れられてなんていない。

また流れ着いてくるものもあるかもしれないけど、その時はまた記録すればいい。

少女は安心して、パソコンの電源を落とした。

そうすると黒くなったモニターに、ぼんやりと暗い影が映る。

その時、少女はまだ一つだけ……この場所にあるもので記録してないものがあることに気が付いた。


少女は、記録を始めた。

ただ一つ、記録していなかったもの……自分自身の事について、記録を書き始めた。

物心ついたときから一人だった。親と呼べる人はすぐに彼女の前から姿を消し、頼れる人は一人もいなかった。それでも必死に生きていった。

どれだけ必死で生きても、誰も彼女のことを必要としてくれなかった。誰も彼女のことなど意に介さなかった。

少女は、とても悲しかった。何度も涙を流した。

それでも。いつか誰かに必要としてもらえるかもしれない。

そう思って、少女は世界中を旅していた。必死に役立てる何かを探していた。

誰かの為に、誰かの為に。そう思えば思うほど、どうしていいかわからなくなっていった。


自分は、何の役にも立たない。

自分は、生まれてきた価値がない。

虚無。


いつしか彼女自身ですら、彼女の事なんて忘れ去ってしまっていた。

どうでもいいと自分に蓋をして、何の役にも立てない自分のことを全部忘れてしまったのだ。

だから、この場所に来た。

誰一人、覚えていないものだけがたどり着く場所に。


でも、そのことにも意味があったんじゃないか。

ここに自分がいる限り、皆から忘れられたものなんていない。

流れ着いたものみんな、生まれた理由も、こめられた思いも……きっとある。少なくとも少女にとっては、どれも大切だ。

忘れ去られたものを記録して、二度と忘れられないようにする。

きっと、これが自分の生まれた理由。少女はそう考えるようになっていた。


少女は自分のことに想像を巡らせてみた。

この記録がいつの日か、誰かに届くのだろうか?

私が居てくれてよかったって、誰かに思ってもらえるのだろうか?

そして……誰かに私の事を、覚えていてもらえるのだろうか?

……わからない。だけど、それでも。


これからもずっと私は、記憶から零れ落ちたものを拾い集め続けるだろう。

誰かが何かを忘れてしまっても、ちゃんと私が覚え続けている。

だから……安心してほしい。寂しい思いなんて、きっと……誰もしてない。

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