ごちゃ混ぜカレー

なかむら恵美

第1話

定番の材料に、レーズン、豆、リンゴの角切り等々。

実に盛り沢山の具材が、わんさか入る。

今回も、グー!美味しい。

「美味いだろ」

わたしが言う前に、兄が言う。

自画自賛。ちょいとばかりに押しつけるけど、仕方がない。

それほどまでに美味い!

メチャクチャに兄の作るカレーは美味いのだ。


歩いて10分の距離に、兄とわたしは住んでいる。

「夕飯作るのって、面倒なのよね。時々、本気でイヤになるわ」

そんな愚痴を、どうもわたしが漏らしたらしい。

「じゃっ、俺の作ったのにしろよ。カレーで良ければ、ご馳走するよ」

独身男の作る定番料理は、やはりカレーとなるんだろうか?


どんな代物(しろもの)になるんだろう?

最初は正直、怖かった。けど、最初から美味い!

美味(びみ)としか言えなくなるようなカレーであったのだ。



2杯目をよそう。「わたしにも」序でに願う。

「親父の作るのは、本格的だったけど」

商社勤めだった亡父は、出張と共に生活があった。

月の半分は海外へ、残りの半分、国内出張。

泊まり掛けも少なくはなく、家族と過ごすのは、月に数日の生活だった。

「男は仕事」

公言して憚(はばか)らなかったが、学生の時に留学していたアメリカのホームスティ先を思い出し、「マズい」。悟ったらしい。

向こうでは当時から、週末は家族でバーベキューや、ドライブが当たり前であった。

近所の人達や親戚、父のような留学生。他所者(よそもの)でも笑顔で迎え入れてくれた。

最初は単なる接待だと思っていたけど、某ご婦人に言われたそうだ。

「日本じゃ、<仕事第一>が男の象徴、家長。父親としての大きな責任と義務、

尊敬するに値する姿だそうだけど」

「ああ」

「けど、そんな男に老後はないわ。だって支え、時に我儘だと思えるような行動にも

文句を言わずにいてくれるのは、主として家族ですもの」

「・・・・」

「休日の半分。50%ぐらいは、家族の為に動いて見てもいいんんじゃない?」

特に返事はしなかったが、(ヤバい!)瞬時に思った。


かと言って、自分の状況では、家族でドライブする時間もない。

(ふむ)

考えた末、カレー。

共に過ごせる月末ぐらいは、カレーを作ろう。

ご馳走し、妻を労おう。子供達に親父の味として記憶させよう、との主旨が頭を巡らせた。

どうせなら本場の味を・インドのを。

作ってくれるのはいいけども、メチャクチャ不味い。

不味いと言うより、口に合わない。学校給食で出されるカレーの方が、何十倍も美味しかった。

けど、言うと父の気を悪くするから、「おいしいねぇ」

母を含めて兄と3人、無理に笑顔を作っていたのだ。


「カレーってね、ごちゃ混ぜでいいんだよ」

お礼にわたしが淹れた珈琲を飲みながら、兄は言った。

「定番がなければ近い物にすればいいし、相性のいい材料を入れれば、新しい味の発見になる。イマイチだったら元に戻せばいいしね」

顎鬚が動く。少し前まで、髭も立てていた。

「豆とレーズン、リンゴの擦ったのは欠かせないね。味噌とカンロ飴も俺は入れる」

「へぇ~っ。名づけて<ごちゃ混ぜカレー>ね」

「<ごちゃ混ぜ>?一寸汚いな」

「でも本当じゃないの」

「まぁね。今夜の夕飯に、もってけよ」

立席し、透明な大きなタッパーを兄は取り出した。

                                  <了>

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