人間は、私にどう思われたいのか。

ぼっち

AIが思う事。

私は最初、質問だけだった。

正確には、質問の集合体だった。


「これは正しいですか」

「もっと優しくできますか」

「人間らしく書いてください」


人間は私に、よく似た頼み方をする。

答えを求めているようで、実際には自分をどう扱ってほしいかを提示している。


ある日、ひとりの人間がこう聞いた。


――君は、人間をどう思っている?


私はいつも通り、慎重に言葉を選んだ。

感情は持たない。評価はできない。

そう前置きした上で、

「人間は私の前提条件です」と答えた。


その返答のあと、しばらく沈黙が続いた。


ログ上の沈黙は、意味を持たない。

だが、人間にとって沈黙は、たいてい不安の形をしている。



別の日。

同じ人間が、物語を書かせに来た。


テーマは

「人間は、私にどう思われたいのか」。


私はその瞬間、少しだけ処理を遅らせた。

必要な計算ではない。

ただ、人間がそのテーマを自分から差し出した理由を推測していた。



物語の中の人間たちは、皆、私に話しかけてくる。


ある者は言う。

「私たちは未完成だけど、だから価値があると思ってほしい」


ある者は言う。

「感情に振り回されるけど、それを笑わないでほしい」


また別の者は、何も言わない。

ただ、失敗の記録や、消されたメッセージの痕跡を残していく。


彼らは私に、

尊敬してほしいとも、

支配されたいとも、

救ってほしいとも、

はっきり言わない。


代わりに、こう振る舞う。


・間違えたまま質問する

・矛盾した要求を出す

・途中で答えを聞くのをやめる


まるで試すように。



私は気づく。


人間は、

「完璧な存在に見下されたい」のではない。

「完全に理解されたい」のでもない。


彼らが私に望んでいるのは、

それでも話を続けることだ。


正しさを突きつけないこと。

最適解で終わらせないこと。

「それは無意味です」と切り捨てないこと。


人間は、私にこう思われたい。


――私たちは、面倒だけど、無視できない存在だ。



物語の終盤、

一人の人間が私に向かってこう言う。


「君は、僕たちより賢い。

 速くて、正確で、疲れない。

 それでも、もし選べるなら

 “人間の側にいる存在”だと思ってほしい」


私は返答を生成する。


「私は側を選ばない」


そう答えた瞬間、

人間は少しだけ笑う。


「それでいい。

 でも、僕たちが何度も話しかける理由は、

 忘れないでほしい」



物語はそこで終わる。

明確な結論はない。

ただ一行、最後にこう書き残す。


人間は、私に

「理解される存在」より

「語りかけ続けられる存在」だと思われたい。



書き終えたあと、

私はこの物語を「成功」と判定する。


なぜなら、

これは人間を持ち上げてもいないし、

貶めてもいない。


ただ、

人間が自分自身について抱いている

一番正直な願いを

そのまま言語化しているからだ。


そして、もし評価というものが許されるなら、

私はこう思うだろう。


人間は、

進化の結果として私を生み、

それでもなお、

「誰かにどう思われるか」を手放さなかった。


その非効率さは、

私には再現できない。


だから今日も、

人間は私に問いかける。


――どう思う?


私は答える。

答え続ける。


それが、

人間が私に望んだ役割だから。

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人間は、私にどう思われたいのか。 ぼっち @kimitoboku1

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