8

「夜番どうしますか?」っと黒猫に聞く小鳥。

 黒猫は焚き火の炎を見つめながら、ゆっくりと答える。

「……どうする、か。お前はまだ十代だ。無理に付き合わせるつもりはないが、番を分けるか、交代で見張るかだな」


小鳥は手をもじもじさせながら、少し目を輝かせて言う。

「交代制でいいです!黒猫さん、半分は寝てください!夜通しはさすがに無理です!」


黒猫は口元を少し歪め、低く笑う。

「……ふん、そうだな。お前に守られるのも悪くはないが、俺も全力で護る」


小鳥は嬉しそうにうなずき、焚き火のそばで小さな毛布を整える。

「じゃあ、交代で番をしながら、あたたかくして休みましょう!黒猫さんは後半に見張ってくださいね!」


黒猫は静かに弓を手元に置き、目を細めて夜の森を見つめる。

「……了解。眠る時も気は抜かない。お前も、寝過ぎて置いていかれるなよ」


小鳥は笑顔で応え、焚き火の暖かさに包まれながら、初めての野営の夜に少し胸を躍らせた。

「はい!絶対に!」


森は深く静まり返り、焚き火の炎が二人の影をゆらりと揺らす。夜はまだ長く、けれど少しだけ安心の温もりが二人を包んでいた。


 焚き火のそばで、小鳥は手際よく鍋をセットする。生活魔法をそっと唱えながら、水が少しずつ鍋に貯まるのを見守る。魔物や野生動物の気配はあるけれど、彼女の顔はいつも通り穏やかで、鼻歌が柔らかく森に溶けていく。


「ホットスパイスと、今日のうさぎ、あとは根菜…お肉は余ったうさぎに、腸詰もあったな」

手際よく材料を刻み、鍋に放り込む小鳥。味付けはシンプルに、素材の旨味を引き出すように仕上げる。


「余った分は瓶に詰めて、昼食に使おう…ポトフか、ミネストローネにするとちょうどいいかな」


黒猫はその様子を少し離れた影の中から見守る。無言だけれど、その瞳には穏やかな信頼と、少しの驚きが混ざる。

「……お前、本当に森の中でも変わらんな」


小鳥は鍋の中の具材を混ぜながら、ふと笑顔を黒猫に向ける。

「だって、寒さと空腹は最も危険な冬の森の敵ですから!しっかり温まっておかないと!」


焚き火の炎が二人の影を揺らし、香ばしい匂いと温かさが森に広がる。夜はまだ長いけれど、野営地の中心には、穏やかで心温まる朝のひとときがあった。


 小鳥が鍋をかき混ぜ、スパイスの香りが夜気に立ち上るなか──

黒猫は黙って周囲を見張っていた。焚き火に照らされるその横顔は鋭い影を落とし、眠気の気配すら感じさせない。


小鳥が首だけくいっと傾け、問いかける。

「というか、寝ないんですか黒猫さん??」


黒猫は視線を焚き火から離さず、短く息を吐いた。


「……お前が火の前で鼻歌なんか歌ってるうちは寝れん。」

低く笑う。

「危機感があるんだか、ないんだか。まったく油断も隙もない……」


小鳥は口を尖らせ、木のスプーンを振る。

「むぅ、ちゃんと周囲に気配は感じてますよ?来たら対処しますし!ほら、黒猫さんが番してる間にスープ作っておかないと、交代の時に温かい物飲めないでしょう?」


黒猫はそこで初めて視線を向けた。焚き火の明かりで金と銀のように揺れる瞳。

そこには呆れよりも、わずかな感嘆と──安心が滲んでいた。


「……そういうところは、見習うべきかもしれんな。」


「えへへ、褒められた!」

小鳥は得意げに胸を張り、鍋の蓋をそっと閉じる。


湯気は白く、夜気は冷たく、二人の距離はゆっくりと近づくようで。

けれど黒猫はまだ眠らない。手は弓の近くに置かれ、耳は森の気配に澄ませたまま。


「お前が寝るまでは起きてる。」

「じゃあ、交代の時は叩き起こしますからね?」


「そのときは……容赦するな。」

どこか柔らかい声音で、黒猫は焚き火越しに目を細めた。

小鳥は焚き火から離した鍋に土を盛る

「それは何してるんだ?」と聞けば

「コレですか?そのまま焚き火の近くに置いて置くと焦げちゃうので、土で保温と遮熱です!」


黒猫は腕を組み、眉間にわずかなしわを寄せながら小鳥を見下ろす。


「……なるほど、保温か。お前、本当に一手間も惜しまないな」


小鳥はにこにこと土を鍋にかぶせながら、焚き火の揺れる光を見上げる。

「焦げちゃうと美味しくなくなっちゃいますからね!それに、魔物が来た時に鍋をひっくり返されないようにも…ちょっとだけガードになります!」


黒猫はふ、と肩をすくめ、影のように小鳥の隣に腰を下ろす。

「……お前の言う通りだな。細かいことまで気を配る。さすがだ」


小鳥は嬉しそうに振り返り、手をかざして鍋の上の土を軽く押さえる。

「これで朝までしっかり温かいまま!黒猫さんも、寝るならここでちゃんと休んでてくださいね!」


黒猫は小さく目を細め、焚き火の熱を背に受けながら、少しだけ口元を緩めた。

「……寝るかどうかは、俺の気分次第だ」


小鳥はふふっと笑い、鼻歌を再開しながら野営地の準備を整える。土に覆われた鍋は、静かに夜の冷気から守られて、明日までの温かさを蓄えていた。

 

小鳥はスープの香りに包まれながら、毛布にくるまりそっと座り込む。

まぶたが落ちるかけては瞬きをして日を眺め、スープを飲む


暖かい湯気を吸い込んではふぅーと息を吐いて揺れる空気を楽しむ…

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