両片想いを自覚するなんて至難の業だから、僕らはいつも恋に惑う

@Katsukisaya

出会い

第1話 噂

 春はあんまり好きじゃ無い。

 新しい場所で最初に経験するのはいつだって噂話だから。

 平均より高い身長と平均より整った容姿のせいで、いつだって静かで平穏なスタートは切れなかった。同じ学校の中で進級する時だってそうなのだから、新しい環境なら尚更平穏は諦めなければいけない。

 大学生にもなれば嫌でも身に付いてきた経験値から得た立ち回り方と、ある程度の妥協と諦めを上手く組み合わせて新生活に馴染み始めた頃、それは聞こえてきた。


「入学早々ハーレムって流石にヤバくない?」


 面白がっているのが十二分に伝わる友人の声に、耳が止まる。


「あそこ!見てみろって。男子はうちの学部の奴だろ?確か、乾陸斗だっけ?女子の方は知らないから、確実に他学部だな。大学まで来てビジュいい奴に群がるとかさー。うちの大学にそんな程度の低いヤツいるとかマジウケるんだけど」


 皮肉気で、それでいて素直に羨ましさが乗っかっているのは発言した友達の性格の良さと言えるだろう。

 とは言え、羨ましさが勝りすぎている口調だけれど。


「ハーレム?」


 俺と同じく状況を掴みきれていない別の友人が口を開く。


「あの女子3人だよ。ずっと乾陸斗と一緒にいるっぽくてさ。ま、他学部だから一般教養だけだけどさ」


 入学して2ヶ月、この時期の講義は3分の2が一般教養の授業だから、実際には結構な頻度で一緒にいるんだろう。特に噂好きな訳でもない奴が言いたくなるくらいには。


「一回、興味本位で近くの席に座ったことあるんだけどさ、全員下の名前で呼び合ってんの。しかも呼び捨て!それもう、ハーレムじゃね?」

「マジで!?なにそれ、他の女子と好きな男子共有してるって事でしょ?その思想ヤバすぎっしょ」

「どっちかと言えば、それ許容してハーレム築いてる乾のがヤバいって」


 若干飛躍しすぎな論理だとは思うがまだ10代、思春期末期の男子が複数人集まれば当然と言えば当然な話の流れに、適当に相槌を打ちながら俺もその集団に目をやった。


 男子にしては中性的で綺麗な顔立ちと全体的に薄い色素。身長は小柄という程でもないけれど、線の細さと相まって華奢な印象を与えている唯一の男子が多分、乾。シンプルだがハイブランドの質の良さが分かる物を嫌味なく着こなしている感じが実家の裕福さを感じさせる奴で、確かに学部の授業で見かけた記憶がある。そして、そいつと話している女子が3人。

 3人共、服装や雰囲気に共通したものは感じないが、強いて言うなら飾り気はあまり無い。自分の経験上、見た目で男子を選ぶ女子はもっと着飾った雌臭の強いタイプだと思うから、ハーレムの構成員にしては意外な気がした。

 少しキツめな印象を与える顔立ちと切れ長な瞳が印象的な1人は黒髪ロングで清楚系。服装の雰囲気が乾陸人と被る。もう1人はフワフワとした茶髪と小柄な体格が小動物を思わせる女子で、あざと可愛い系か?そして最後の1人は、


「なに、そんなじっくり見て。羨ましい?新田ならすぐに作れるんじゃない?乾よりもイケメンだし、背も高いっしょ」

「羨ましくないし、そんなの欲しくないって」

「流石、イケメンは余裕だねー」

「ちげーよ。まじで今は彼女とか欲しいと思ってなくて」

「だから、それが余裕だって。欲しいと思ったらすぐ作れる奴しか言えないセリフだから」

「おっ、お前それ僻んでんの?」

「ちげーし!ってか、それ言うならさー」


 ズレていった友達に話に合わせながら、俺は最後の1人を、もう一度そっと見る。

 きちんと手入れした真っ黒なボブを揺らせて気取らぬ態で笑う彼女。、唇の動きだけで『ごめんなさい』と告げた彼女を。


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