俺と彼女の輪廻転生~何度も繰り返すのに、結果はいつもハッピーエンドにはならない。それでも俺は君だけを愛し続ける~
来留美
プロローグ レベル0・5 レンとユズ
「なあ、ユズ。俺の婚約者になってくれよ?」
「無理!」
俺のプロポーズをユズは一瞬で断った。
俺は断られても落ち込まないし、なぜ断るのか理由を訊くこともしない。
「ユズがいいよって言ってくれれば、俺はそれでいいんだよ」
「しつこいわよ。だから無理だって言ってるでしょう。それに私達は幼馴染でしょう?」
「それは今の俺達で、昔は違うんだよ」
「また昔の話なの? 昔は昔で、今は今なのよ」
ユズがプロポーズを断る理由は、俺の言葉を信じようとしないからだ。
それを知っているから、俺は落ち込むよりも、何度もプロポーズをする方を選ぶんだ。
信じてくれるまで。
「ユズって、俺の昔の話を冗談だと思ってるよね?」
「レンの昔の話を信じることと、婚約者になるって話は別でしょう? それにレンが言っている昔の私は、今の私とは違うのよ?」
「それって、俺を好きにならないって言うつもりなのかよ?」
「レンは幼馴染よ。それに私は高校一年生でレンは高校三年生の学生なんだから、結婚なんてまだまだ先のはなしよ」
俺は、幼馴染のユズにプロポーズをしてフラれた。
これで何度目か分からないくらいフラれている。
しかし俺は諦めない。
だってユズを必ず手に入れたいからだ。
そんな俺の大切なユズはそれはもう、美しく可愛い女の子だ。
ショートカットがとても似合って、顔は小さいのに目は大きいお人形さんのようだ。
それに比べ俺は普通の顔で、レンという名前の凡人だ。
そんな俺だが、この平和で幸せな世界に生まれたことを、とても嬉しく思っている。
そう思えるのは、俺が何度も生まれ変わって、色んな世界を生きてきたからだと思う。
俺は何度も何度もユズを好きになった。
昔の記憶は残ったままで、色んな世界のユズを覚えている。
しかし、ユズは違う。
ユズは一度も俺のことを覚えていたことはない。
そして、俺のことを思い出したこともない。
それでもユズと俺は何度も惹かれた。
好きになった。
そして愛し合った。
しかし、この世界のユズは、俺を好きになってはくれない。
俺はこんなにユズを好きで、愛しているのに。
どうすればユズに伝わるんだ?
俺がどれだけユズを愛しているのかを。
どうすればユズは、俺と同じ想いになってくれるんだ?
これから先、ずっと一緒に生きていくという想いを。
◇
「好きだ」
学校へ行く為にユズが家から出てきたところで、俺はユズに向かって言った。
「なっ、何? 朝の挨拶はおはようでしょう?」
「なんだよ。私もだよって返してくれよ」
「ただの幼馴染に言う訳がないでしょう」
ユズはそう言いながら、俺に背を向けて歩き出す。
俺はユズについていく。
「俺は、ただの幼馴染じゃなくて婚約者なんだよ」
「婚約者は昔の私でしょう?」
「昔のユズだけど、今のユズも婚約者になるんだよ。俺はこんなにユズを好きなんだからさ」
「分かっているわよ、レンの想いは。でも私は、レンが好きって言ってくれるから好きになるのは違うと思うの」
ユズは振り返り、困った顔をして俺に向かって言った。
俺が好きだと言うとユズは、たまに困った顔をする。
それは俺が諦めないと分かっているからだと思う。
「ユズを好きだという気持ちは消えない。でもユズが嫌なら、俺が好きって言わなければいいのかよ?」
「そうじゃなくて、何て言えばいいのか分からないけど、、、ただ私はちゃんと自分で決めたいの」
ユズは俺を真剣な眼差しで見て言った。
ユズだって戸惑っているのかもしれない。
昔は婚約者だったなんて言われても、覚えていないのだから。
この平和で幸せな世界だからこそ、ユズは考える余裕があるのかもしれない。
今までの世界は考える余裕すら無いほど、生きることで精一杯だった。
この世界には、この世界のやり方があるんだ。
昔の世界には昔の世界のやり方があるように。
この世界は平和で幸せが溢れていて、危険もなく過ごしやすいが、俺にとっては、この平和で幸せな世界が初めてで経験したことのない世界だ。
だからなのか、ユズの気持ちがよく分からない。
もしかしたら、ユズと俺の運命は変わってしまったのかもしれないとさえ思ってしまう。
別々の道を歩くことになってしまうのかもしれない。
そう思うほど、この世界は今までと何か違っている。
俺の気持ちだけが前へ進むことを拒んでいる。
ユズだけが前へ進み、俺から離れていくようだ。
こんなに平和で幸せな世界なのに。
俺達は幸せにはなれない、何故かそんな感覚がする。
「そういえば、今朝のニュースを見た?」
ユズはいきなり話題を変えた。
ユズはいつもそうだ。
俺がユズへの想いを伝えると、ユズはプロポーズを断るくせに、俺を嫌いとは言わず、話を変えて誤魔化す。
「見てないよ」
「それなら教えてあげるわ。この辺りで虐待された猫ちゃんが見つかったんだってよ」
「その猫は生きてるのか?」
「生きてるけど、一生歩けないんだって」
「そうなんだな。この平和で幸せな世界にも、悲しいことは起きるんだな」
「平和で幸せな世界?」
「そうだよ。俺は色んな世界を生きてきたけど、この世界が、一番平和で幸せな気がするんだ」
「何処が平和なの? 猫ちゃんみたいに弱い者を傷つける人がいるこの世界の」
ユズは少し怒っているようだ。
ユズは昔から動物が好きで、特に猫は大好きだ。
そんなユズが猫の悲しい話を聞いて、怒らない訳がない。
「俺は身分の違いや、見た目の違い。それに強い者を頼らなければ生きていけない世界。色んな世界を知っているんだ」
「それを知っているレンは、この世界が平和で幸せだと思うのは何故なの?」
「戦争や争いがないんだ。みんなが力を合わせて生きている」
「戦争や争いはこの世界でも起きているわ。レンが知らないだけよ」
「でも、ユズといるこの場所には争いはないよ。そして何よりユズと俺は、小さな頃からずっと一緒に生きてきたんだ」
「誤解がないように言うけど、幼馴染として一緒に生きてきただけだからね」
「そうだね」
俺は彼女の言葉を聞いて苦笑いになる。
「レンって、自分の目線からでしか、色んな世界を見てきていないのね」
「えっ」
「レンから見たら、昔の世界は苦しい、悲しい、寂しいかもしれないけれど、他の人の目線だったら、どうだと思ってるの?」
「他の人?」
「そうよ。昔の私だったらどうだと思ってるの?」
ユズからの質問には考える必要もなく、答えはすぐに出る。
「ユズも俺と同じだと思うよ? 何度も俺とユズは結ばれることもなく別れるばかりで、苦しかったと思うんだ」
「それはレンの目から見た昔の私でしょう?」
「でもユズは、本当に悔しそうに、悲しそうな顔をすることが多かったんだよ」
「レンの目にはそう見えたのかもしれないけれど、本当のところは分からないでしょう?」
そうだ。
本当のところは分からない。
いつの世界でも、ユズの本当の気持ちを訊いたことはなかった。
「この世界は、まだ平和で幸せな世界とは言えないわ。私はちゃんと周りを見てそう思うわ」
ユズは俺を真っ直ぐ見て言った。
「俺だって最初は周りのことも考えていたよ。でも気付いたんだ」
「何に?」
「俺達の幸せは、周りには関係ないんだ。俺とユズの世界が幸せならそれでいいんだ」
「自分さえ良ければいいの?」
「俺は何度も経験して学んだんだ」
「だから私をレンの婚約者にしたいの?」
「それが俺達の幸せだからね」
「どうして私に、レンの気持ちを押し付けるの?」
ユズは怒ってイライラしながら言った。
ユズがなぜ怒るのか分からない。
イライラするのは俺の方だ。
いつになったらユズは、俺を好きになってくれるんだよ。
「押し付けてる訳じゃないよ。俺とユズは結ばれる運命なんだよ」
「そんなの誰が決めたの?」
「えっ」
「昔のレン? 昔の私? 神様?」
ユズは早口になりながら、自分の想いをぶつけてくる。
「昔の俺とユズだよ」
「今のレンは?」
「えっ」
「今のレンはそれでいいの?」
「俺はユズが好きだ。それはどの世界でも変わらないんだ」
「どうして分からないの? レンが変わらないから何度も私達は、結ばれない人生を繰り返しているのよ」
「変われって言われても、俺は全部を覚えているんだ。苦しみも、悲しみも、怒りも、寂しさも。ユズには分からないんだ」
俺の言葉にユズは傷ついた顔をしている。
「それを経験したのはレンだけだと思わないで。私は覚えていないけれど、レンと同じ数だけ傷ついているわ」
「覚えていないなら幸せじゃん」
「ヒドイ言い方ね。レンなんて大嫌いよ」
ユズはそう言って走って学校へ向かった。
ユズを追いかけようとは思ったが、追いかけなかった。
だって、俺の気持ちを分からないユズに、イライラしていたから。
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