隻腕の天才高校生絵師の被写体は学校のマドンナ様

リヒト

出会い

「いやっ!止めて!」


 都会の喧騒。

 仕事帰りのサラリーマンたちの足音。

 酒に酔う者たちの騒ぎ声。

 雑多に、数多くの声が木霊するその都会の喧騒からは離れた静かな裏路地に一人の少女の悲鳴が響き渡っていた。


「へへっ!何言ってんだよ……こんなところに嬢ちゃんみたいな

襲ってくれって言っているようなものじゃねぇか」


 下衆たる笑みだった。

 悲鳴を上げる少女を取り囲む三人の男たちは醜く笑う。


「いやっ!?」


 年齢はそう自分と変わらないであろう不良少年たちが肩を掴んでくる状況に少女は悲鳴を上げ続ける。


「へへっ。おい、体を押さえろ」


 だが、その悲鳴は不良少年たちの嗜虐心をそそるだけだった。

 

「悪いなァ」


「ひひっ」


「……い、嫌ッ!?」


 少女が、自分の肩を掴む男の腕を振り払って逃げようとしても無駄。


「いたっ!?」


 一人の男子が足を引っかけて地面に転ばし、もう一人が彼女の背中を思いっきり踏みつけ、逃げられないようにする。


「うぅ……」


「服脱がせや。お楽しみの時間だぜ」


「ひひひっ」


 少女は絶望の表情で涙を流す。

 地面に転ばされた痛み。背中を踏みつけにされた痛み。鈍く残る痛みに体を震わせる少女は何も抵抗できず、服を剥ぎ取られる。


「なぁーにしてんだが」


 上着を一枚。

 脱がされたところで石ころが一つ、少女の前を転がってくると共に新しい男の子の声が聞こえてくる。

 

「ったく。最近の東京の治安悪くなりすぎでしょ。ちょっと人気のない場所だからって女の子をレイプしようとする半グレどもがいるとか……どこの国なんだが」


「……誰だ、テメェ?」


「おっと。僕の腕は国宝級。一旦は服の中にでも隠そうか」


 絶望に沈んだ少女が顔をあげた先にいたのは自分と同じ学校の制服を身に着けた少年が立っていた。

 腕を服の中に隠してお道化た表情を浮かべているその少年は、地面に転がる少女とは正反対であった。


「いやはや、同じ学校のよしみ。助けてあげるよ」

 

 背丈は180cmほど。整った顔つきの彼は何処までも緊張感のない態度でそこに立っていた。


「舐めんなよッ!」


 そんな少年の態度に不良少年の一人が激昂しながら拳を握り固め、一気に距離を詰めていく。


「ほっ」


「あがっ」


 だが、それは少年が放った鋭い前蹴りが潰した。

 自身の顎に前蹴りが差し込まれた不良少年はその一撃一つで意識を失って地面に倒れる。


「おっと。乱暴しちゃった。というか、誰だ、テメェ。という疑問の声に返答していなかったね。僕の名前は天野桐谷。ただの天才高校生だよ。よろしく」


「……舐めてんじゃねぇぞ?金持ちのボンボンがァ」


「金持ちのボンボンぅ?僕がぁ?君たちの親が貧乏なだけじゃなぁい?」


「テメェ!」


 不良少年たちを何処までも煽る桐谷へと彼らは激昂しながら突っ込んでいく。


「いっちょ上がり」


 だが、その不良少年たちは桐谷を前に一蹴された。

 文字通り、桐谷は不良少年一人一人をたった一発の蹴りだけで順番にノックアウトさせていったのだ。


「いやぁ、別に僕は喧嘩自慢で売っているわけじゃないんだけどね?……っとと、大丈夫?」


 右腕だけ、服の中から出した桐谷は地面に倒れている少女へと手を差しだす。


「あっ……はいっ。いつつ」


 その手を取って立ち上がった少女は先ほど、不良少年に蹴られた背中を抑えた。

 

 

 ずいぶんと、痛そうだ。

 僕は自分の手を取って立ち上がった少女の苦痛に歪む表情を見ながら呑気にもそんなことを思う。


「ずいぶんな乱暴をしたみたい……まったく。酷いものだね。さっさとここから離れようか。行くよ」


「……」


 僕は自分の手を取る少女の手を軽く引き、裏路地を進んでいく。


「もう、こんな暗く人気のない道に来るもんじゃないよ」


 人通りの良い道まで案内してきた僕はそこで手を離し、少女の背中に脱がされていたブレザーをかけてあげた後、また通ってきた裏路地へと戻っていく。


「あ、あの……ッ!何か、お礼をさせてください!」


「んー?あぁ、別にそんなの良いよ。暇じゃないしぃ」


 コンテストが近い。

 別にそんな重要なコンテストでもないが、やると決めた以上、半端な作品は作れない。さっさと家に帰って絵を書かないと。

 最近、調子悪いからな。

 真面目に描かないと。


「んじゃ」


 僕はさっさとこの場を離れる。

 女の子のアフターケアまでは面倒だしいいや。した方がいいのかもしれないけど、そこまでやる義理もないな。僕の貴重な時間をそう何度も割いていられない。


「……はぁ」


 少しのため息とともに、僕は道を進み、あの女の子を送り届けた道を引き返していく。

 僕の家は逆方向。

 さっさと帰る為、僕は裏路地を通って帰り道をショートカットしていく。


「よっと」


 道を占める室外機を飛び越え、僕は明るい道へと出る。

 この道はいつも、帰り道として使っているものだ。

 既にここを進むのも慣れたもの。暗い裏路地から明るい表の道に出る際の明暗の変化。それに目をくらませるのを嫌った僕はその一瞬だけ目を瞑る。

 これもまた、いつものことだった。

 いつものように歩き出しながら、僕はちょっとずつ目を開けていく。


「……えっ?」


 そんな、僕の視界を支配するのはすべてをかき消すような光だった。 

 トラックのヘッドライトが僕の網膜を焼いて───。



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