氷結の魔法使いエルフが、世界を救うために2人の凸凹バディを育てます。

エンザワ ナオキ

プロローグ

プロローグ前編 剣士の少女

 人とは、簡単に亡くなってしまう生き物である。


 人間界と魔族の戦いは数百年続いている。

 しかし、数百年前に魔王は封印されたが、決着がついたわけではない。

 次第に魔族の力は増していき、戦いは徐々に激しさを増していく。

 

 ――この匂い、もう嗅ぎたくない


 魔族との戦いは、絶対に死者を出してしまう。

 その戦場に漂う〈鉄の香り〉を嗅ぐのが本当に嫌である。


 魔族は、人間やエルフはもちろん、他の種族を襲う、極めて危険な種族である。

 そのため、私たちは人間やその他の種族と同盟を組み、魔族の討伐を連携して行なっている。


 私はエルフ族、氷の精霊を司る〈フローズンサンデー〉という地の盟主『クリスタ』と言う者だ。


 盟主と言っても、飾りのようなものである。

 実際は、人手不足で、自ら戦場に向かわなければならない。


 ある日、私は任務で、魔族が紛れていると言う噂のある村を訪れていた。


 ――あと少し遅かったか……


 建物が燃える匂い。人々が焼ける嫌な匂い。

 そして、悲しみに暮れる住民たちの悲痛な声。


 1日、いや半日でも早く着けば、事態は変わっていたであろう。


 ――まだ、魔族がそばにいる?


 私は村外れの方から、魔族の匂いを検知した。

 せめて、これ以上の犠牲者は出したくない。

 私は、急いで現場へ向かった。


 目に入ってきたのは、一人の少女が手を振るわせながら魔族と戦う姿であった。


 額と体には、大小ばらつきはあるが傷が多くつき、立っているのも奇跡としか言いようがなかった。

 彼女の茶色い髪も、血で染まっていた。

 その少女は、必死に最後まで戦う姿を見せていた。


 ――なんという執念と根性……


「人間の子供が、死んだふりをすれば命は助かったものの……永遠に眠り、俺の栄養となれ!」


 大きな牙が、少女の喉を切り裂こうとしたその時、私はその魔族の首を氷の魔法で切り落とした。


「ごめんね、間に合わなくて」


 私は気づいていた。


 その少女の両親が、この魔族に殺されてしまったことを。

 私は、すぐに救助部隊を呼んで、少女の治療をお願いした。


「村の人たちを……みんなを守れなかった」


 少女は弱った声色で、私に訴えてくる。

 悔しさと怒りが伝わってくる。

 確かに守れなかったかもしれない。

 ただ、この少女は最後まで勇敢に戦い抜いた。

 無事に生きてほしい。


 あなたの最後まで戦う勇気、きっと世界を救う英雄となれる。 


 ――強く生きてくれ

 

 私はこの少女を、弟子として育てることとした。

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