第11話「最終決戦!神眼VS邪神」
「邪魔をするな、小僧ども!」
仲間を二人も一瞬でやられ、煉獄のゼノスが怒りの咆哮を上げた。残る四天王、”深淵のネプトゥラ”と共にレオンたちに襲いかかる。
「リナ、カイト!四天王をお願いします!」
「任せて!」
「はい!」
レオンの指示に、二人は即座に反応した。リナが疾風の如き速さでゼノスに斬りかかり、カイトが上空からネプトゥラに大魔法の雨を降らせる。かつて苦戦した強敵たちと、互角以上に渡り合う二人の姿は彼らの成長を何よりも雄弁に物語っていた。
レオンは、その間にアレスへと駆け寄る。彼は既に意識を失いかけており、体は邪神に乗っ取られる寸前だった。紫黒のオーラが、まるで生き物のように彼の体を蝕んでいる。
「目を覚ましてください、アレス!あなたは、勇者なんかじゃない!邪神に利用されている、ただの人間だ!」
レオンは叫びながら、アレスの額に手を当てる。彼のスキルは【神眼】。万物の本質を見抜く力。それは、邪神が施した精神汚染さえも見抜き浄化する可能性を秘めていた。
レオンの純粋な聖属性の魔力が、アレスの体内に流れ込む。紫黒のオーラが、光に焼かれるように激しく抵抗した。
『――我を妨げるか、神眼の持ち主よ』
脳内に、直接声が響いた。それは男でも女でもない、老いても若くもないただただ混沌とした、邪神そのものの声だった。
『この器は、我がものだ。世界の理を乱す定めの人間。初代も、そしてこいつもな』
「違う!人の運命は、誰にも決められない!」
レオンはさらに魔力を込める。【神眼】を最大まで解放し、アレスの精神の奥深くへと潜り込んでいく。そこは、邪神の悪意によって作り出された絶望と嫉妬の闇の世界だった。
闇の中心で、少年時代のアレスが膝を抱えて泣いていた。彼は、生まれながらに他者の力を吸い上げてしまう呪われた体質のせいで誰とも親しくなれず、常に孤独だった。その心の隙間に、邪神は「お前は特別な存在だ」「お前は勇者だ」と囁き続け彼を歪めていったのだ。
『哀れだろう?この男は、我がいなければただの嫌われ者よ』
「それでも!彼が、彼自身の人生を生きることをお前が奪う権利はない!」
レオンの光が、闇を切り裂く。それは、アレスの心の奥底に眠っていた純粋な光だった。誰かと繋がりたい、誰かに認められたいというささやかな願いの光。
「アレス!思い出すんだ!君が本当に望んでいたものは、偽りの勇者の名声なんかじゃなかったはずだ!」
レオンの魂の叫びが、アレスの意識を揺さぶる。アレスの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。その瞬間、彼の体を覆っていた紫黒のオーラが潮が引くように消え去っていく。
『おのれ……!』
邪神の恨みの声が響き渡る。だが、器を失ったことでその存在は不安定になり、黒い靄のような実体を伴ってアレスの背後に出現した。いくつもの触手を持つ、おぞましい混沌の塊。それが、真の敵の姿だった。
「レオン……。俺は……」
意識を取り戻したアレスが、呆然とつぶやく。
「話は後です!来ますよ!」
邪神は、自分を邪魔したレオンに怒りの矛先を向け無数の触手を伸ばしてきた。
「させません!」
アレスが、最後の力を振り絞って聖剣を構えレオンの前に立ちはだかる。だが、その剣は邪神の触手に触れた途端あっさりと砕け散ってしまった。
「くっ……!」
絶望するアレス。だが、レオンは冷静だった。
「リナ!カイト!今です!」
その声に応え、四天王を倒した二人がレオンの左右に駆けつける。
「レオン、準備できたわ!」
「いつでもいけます!」
レオンは、懐から「叡智の宝珠」を取り出した。そして、リナが持つミスリル製の剣、カイトが持つ星霜の法衣に宝珠の力を注ぎ込む。
「僕の【神眼】は、万物の進化の道筋さえも見通す。今、あなたたちの力を限界の先へと導きます!」
レオンの言葉と共に、リナの剣は光を放ち風そのものを纏った「神風の剣」へと進化。カイトの法衣は星々の輝きを増し、宇宙の魔力を操る「星辰の法衣」へとその姿を変えた。
「行くぞ!」
三人の心が、完全に一つになる。
リナが、音速を超えた踏み込みで邪神の懐に飛び込みその神速の連撃で無数の触手を切り刻んでいく。
「これで、どうだぁっ!」
カイトが、上空に巨大な魔法陣を展開。そこから降り注ぐのは、星そのものを凝縮したかのような殲滅の光。
「スターライト・エクスティンクション!」
邪神の体が、聖なる光に焼かれ悲鳴を上げる。だが、その生命力は凄まじく決定打には至らない。
「レオン!とどめを!」
リナが叫ぶ。レオンは、二人が作り出した一瞬の隙を見逃さなかった。彼は「叡智の宝珠」を自らの胸に当て、その全魔力を解放する。
「【神眼】、全開!――世界の理よ、その本質をここに示せ!」
レオンの瞳が、神々しい黄金色に輝く。彼の目には、邪神の存在を構成する全ての理が見えていた。その中心にある、たった一つの弱点。存在そのものを司る、核。
「そこだ!」
レオンの手のひらに、凝縮された聖なる光の槍が出現する。それは、彼が持つ神官としての力の全てだった。
「この世界から、消えろ!――【ジャッジメント・レイ】!!」
放たれた光の槍は、寸分の狂いもなく邪神の核を貫いた。
断末魔の叫びと共に、邪神の体は光の粒子となって霧散していく。後に残ったのは、元の静けさを取り戻した王都の空だけだった。
戦いは、終わった。
崩れ落ちそうになるレオンを、リナとカイトが支える。疲労困憊だったが、三人の顔には達成感に満ちた笑みが浮かんでいた。
彼らの後ろで、アレスが静かに膝をついていた。
「……俺の、負けだ。レオン」
その言葉には、もはや嫉妬も憎しみもなかった。ただ、自分を救ってくれた男に対する偽りのない感謝だけが込められていた。
世界の危機は去り、本当の夜明けが訪れようとしていた。
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