僕らは静かに溶けていく

天音静

僕らは静かに溶けていく

君が僕の中で溶けていく。

僕のそばで眠っていてね。


  ***


『愛する人と共に生涯を終えたい。』


そう言ったのは君だったね。

君の願いを叶えられたかな?

僕はずっと君に驚かされて、支えられて生きている。

初めはさ、その考えに全然共感できなかったよ。だって心中よりかは相手が悲しまないように長生きしたほうがいいじゃないか。

そう思ってたけど一緒のほうがいいのかなって思えてきたんだ。

相手を悲しませることも、自分が悲しくなることもない。それに天国でも一緒になれるんだ。

そっか。そうだね。そうしよう。


  ***


「ねえ、」


「何?」


「あんたってさ、私と恋バナしてくれないよね。何で?好きな人くらいいないの?」


「何言ってんの?いるに決まってんじゃん。ただ君と恋バナをするのが嫌なだけさ。」


「えー!親友のこの私に秘密ごとですかー!?」


「そうだよ!」


「ちゃんと私とお話ししてくれないと!かまってちゃん攻撃しちゃぞー!おりゃー!」


「やめてよ、、、」


「ははは!」


僕の気も知らないで。僕は君が好きなのに。

いくら君が優しい人であろうと僕が同性愛者だって知ったら気持ち悪がって離れていくんだ。

ただ、今は知られちゃいけない。隠さなきゃ。


友達のままでも関係を繋ぎ止めておくために。

そうでもしないと君も僕を捨てるんだろう?

あの子みたいに。

あーあ。あの日、もう人に期待しないって決めてたんだけどなぁ。僕の意思弱すぎるよ...

君に鎖をつけて離れられないようにでもしたいよ。

僕のものって分かるように印もつけておきたい。

でもそんなことしたら信頼が落ちちゃう。

はぁ。


  ***


「だから嫌だってば」


「いいでしょ。お泊まりしようよ!」


「何回言わないといけないの?嫌だし無理だってば」


「ケチ」


君は僕を困らせるのが上手だ。

君の誘いを断るのは胸が苦しいんだよ。

それなのに君はさ。どれだけ僕が普段から我慢してるのか知らないんでしょ?

変に手を出さないように最大限の譲歩をしてるってのに。何でこんなに忍耐力を試すようなことを毎回してくるんだよ。


君と両思いにでもなれればなぁ。

何度も願ったさ。

君と付き合いたいし、君のそばにずっといたいし、誰にも君を渡したくない。

最近さ、僕以外の子と仲が良いよね。

寂しいな...いや、あんまり近づかないでほしいって思ってたのは本当だよ。

自制ができなくなりそうだからさ。

でも君から離れていくのは嫌なんだ。

こっちにきてよ。

僕だけを見てよ。

僕と一緒に生涯を閉じてほしいよ。

でもいくら願ったところでそんなこと叶うことはないんだろうな。高望みだ。

せめて、君の1番の友達は僕のままにしていてくれないか?

この望みだけでも叶えてください神様。

どうかご加護を。


  ***


君は危機感が無さすぎないか?

この前君に『散歩をしよう』と誘われてついていったら君は前から飛んでくるボールにも気づかなかった。

僕がぎりぎり君を引っ張って避けさせることはできたけど...


「うわー!びっくりした!危ない!引っ張って助けてくれたの!?ありがとう!」


「うん、よかった...びっくりしたよ。」


「そういえばあんた運動神経良かったよね」


「そうなんじゃない?体育はいつも5だし。」


「かっこいいね。」


「これでも僕女子なんだよ、女子にかっこいいって言わないほうが良いんじゃないの」


「かっこいいはかっこいいから!」


僕は気づいたんだ。君の目が変わったことに。

僕をみる目が何故かきらきらしてるような、恋する乙女のような目をしていたんだ。

でもそれ目は僕が男の子から告白されたときからもとの君の目に戻っていたんだ。


「ずっと好きでした!付き合ってください!」


「っ...ごめんなさい。僕は他に好きな人がいるんだ。勇気を出して告白してくれてありがとう。○○君はすごいや。」


「そっ、か。ごめんね」


「ごめんね。でも友達だよね。じゃあまた明日」


「うん...」


疲れたな。あの子はすごいや。僕とは違ってちゃんと好きな人に『好きだ』って伝えられてる。僕は怖がりで、相手に嫌われたらどうしようってばかり気にしてる。


がさっ


「...っ!?」


「あ、ごめん。あんたを追いかけてたらここまできちゃった」


「...っくりしたじゃないか。」


「モテモテだねぇ♡ちょっと嫉妬しちゃうね!」


「うるさい」


「あ!口が悪い!」


僕が今君以外を好きになることはないのに。

『嫉妬しちゃう』とかそんな思わせぶりなこと言わないでよ。勘違いしてしまうじゃないか。

友達のままでいたいから。

君と離れたくないから。


  ***


君から急に『もううちらも良い大人だから会う頻度減らさない?』なんて聞かれたとき僕はどうすれば良いのか分からなかった。

なんでそんなこというの。

僕は君と離れたくないんだ。


「親友のこと好きじゃないの」


「そんなわけないじゃん。大好きだよ。でも一緒に生涯を終えたいって思う恋的な好きじゃないもん」


「...そうだよね」


「なに?そんなに私と離れるのが悲しいのかなぁ?かわいいね」


「っ...うるさいよ、」


揶揄わないでくれよ。好きな人の前ではかっこよくいたいのに。今から離れないといけないなら最後にお願い聞いてくれないかな...


「ねぇ」


「ん?」


「じゃあさ、僕の最初で最後のわがまま聞いてくれないかな?」


「いいよ。私にできることなら」


「僕と一緒に生涯を終わらそう?」


「...は?何、言ってるの。冗談でしょ?私の話聞いてた?」


「聞いてたよ。僕は君が好きなんだ。だから、」


あー。間違えた。

急ぎすぎたかなぁ。失望されたよねこれは。

同性愛者をどう思うって君に聞いてなかったな。まあきもちわるいよな。

あーあ。表情、隠せてないよ。

傷つけない言葉とか慰めとかいらないよ。


「ごめんね、きもちわるいよね」


「っそんなことないよ!いやあんたの言ってる『好き』って恋愛感情じゃないもんね...?」


「恋愛感情だよ。君は愛する人のためなら何をしても良いと思う?」


「死ぬほど好きなら、じゃない?」


「そっか。じゃあ良いんだね。ありがと。後悔はさせないし不幸にもしないからさ。」


  ***


「今日は何を食べたい?」


「...」


「焼肉か。いいね。うんと良いお肉食べよう」


ねえ、今幸せだよね。

僕の夕飯はこれを食べようか。

深い紅色をした飲み物と、

タンにカルビにロース。

どんな味がするのだろうか。楽しみだね。

あ、空を見てみて!今日は満月だ。

綺麗だね。最後にこんなに綺麗なものを見れて良かったよ。


  ***


君が僕の中で溶けていく。

僕と一緒に眠ろうか。

誰も見つけられないよ。

僕らは静かに沈んでいく。

数々の星と、眩しすぎるくらいに光る月に看取られて。

君を好きになって良かったな。

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