お花畑で会いましょう。
ヨモギ丸
ロール1 出会い
「え、今日これで終わりなんだけど。え、どっかいかん?」
「いいね、カラオケとか。」
「私服見たーい。」
「あ、ごめん、私ちょっとトイレ行きたいかも。」
「あ、おけおけ。後で連絡するわー。」
「ごめんね。」
私、
大学に入って、すぐに髪の色を明るくしたらなぜか明るめの人たちに好かれてしまい、そのままの流れで今も付き合ってますが、未だに彼氏もできたことのない仮面喪女です。
(あれ?ここも?)
今日はやけに人が多くて、どこに行ってもトイレが混んでいます。
(うぅ…漏れちゃう…。あんまり行きたくないけど…。)
私たちの通う大学には本館とは別に、昔使われていた別館があります。今は、部屋を貸し出したり、サークルの活動場所として使われますが、その不気味な雰囲気と、民度の悪さから近寄りがたい場所になってます。
どさっ
「ひゃっ!?」
物音がした方を見てみると、カラスの死体が落ちていました。
私は恐る恐る小走りになり、電気のちかちかとした別館の奥にある女子トイレにやってきました。
「し、失礼しまーす。」
中に入ると、何だか不思議な匂いがしました。
(なにこれ、なんか懐かしい感じ。)
すると、窓際にタバコを吸っている女の子がいました。
「綺麗…。」
「え?」
「え、あ、どうも。って、すいませんっ!」
私はてんぱってしまい、なんとなくお辞儀をしてから個室トイレに入りました。
「ふぅ…。」
無事にトイレを済ませると、私はとんでもないことに気が付きます。紙がない…。いや、確かに大きい方ではないんだけど…。
「そこ、紙ないでしょ?」
「え?」
ドア越しに、さっきの女の子が話しかけてきました。
「え、あ、そうです。」
「上から失礼するね。」
「ありがとうございます。」
彼女は、ひょいっとトイレットペーパーを入れてくれました。
こうして、安心してトイレから出ることができました。
「え、えっと、ありがとうございました。」
「ううん、いいよ。でもさ、代わりに…。」
彼女は私に近づいて壁際まで追い詰めて、こう言いました。
「これ、秘密にしてよ。」
彼女は吸い終えたタバコを指さしてそう言いました。
「はい…。」
「あはは、ありがとね。君、名前は?」
「え、えっと、文学部一年の二子玉愛花です。」
「へー…同じだ。」
「え?」
「私、工学部一年、
「え、それって…。」
「えへへ…だから、秘密にしてね?」
彼女は、私の口に指を押し当てながら可愛く微笑みました。
この時、心が泥のようにとろけるのを感じました。
「あの…また来ても。いいですか?ここに。」
「え?いいけど…物好きだね。それとも…愛花ちゃんも…?」
彼女は、タバコの吸う方を私に向けました。私は、夏の夜の虫のように、目が離せなくなりましたが、なんとか誘惑から逃げ切りました。
「いや、それはその…またの機会に…?」
「そっか。でも、吸わない方がいいよ?体に悪いから。」
「じゃ、じゃあなんで…?」
「私は特別。それに…私は愛花ちゃんみたいに、綺麗じゃないからね。」
彼女のその、過去に何かあったんだよ感とか、触れたら壊れてしまいそうな感は、私の
(あ、この人だ…。)
「え、えっと、失礼します…。」
「うん、じゃーね。」
彼女は、私に手を振ってくれました。
(可愛かったなぁ…橋谷星華…えへへ、花と華で一緒だ。)
*
「二子玉愛花ちゃんかぁ…また来るって。」
タバコを吹かした。怖くて肺には入れたことはない。
「えへへ…ダサっ。」
頭をかいて、外を見る。苔むした柵を見るのが好き。
「可愛かったなぁ…。」
*
「愛花遅いー!」
「ごめんっ、どこのトイレも開いてなくて!」
「愛花ち、女の子なんだから。トイレじゃなくて…お花畑でしょ?」
「おばさんかよ。」
「えー?みんな言わないの?ばっちー。」
「愛花は言わないよな?」
愛花は、少し微笑んでからこう言った。
「私は…お花畑かな。」
次の更新予定
2025年12月30日 22:00
お花畑で会いましょう。 ヨモギ丸 @yomogu_bekarazu
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