セツナの鳥籠 ~The Last Bloody Promise~
雨色銀水
The Last White Memory
【セツナの鳥籠】
刹那の森には、白い悪魔が棲んでいた。
髪は白銀、瞳は炎のごとき紅瞳。月の夜に村々を襲い、夜が明ければ干からびた死体が地面を転がる。
白い月を背に立つ姿を見たものは、皆口をそろえて言う。
「おまえは、血に飢えた悪魔だ」
悪魔狩りの剣士が振り下ろした刃を、『
打ち捨てられた聖堂に、白銀の剣の輝きが眩いばかりに広がっていく。銀で形作られた刃には、退魔の力が宿るという。その謂れを裏付けるように、血も流れぬ
――そう、これにて悪魔は死ぬ。
剣士の乾いたまなざしが悪魔の顔に向けられる。
「僕は、罰を受けるだろう」
低くかすれた声が聖堂の静寂を揺らした。
倒れ伏したまま、天井から漏れる光を見つめる。月の光。穢れのない色をもってしても、悪魔と化した者を浄化することはもう叶わない。魔道に堕ちたものは、救われることも赦されることもない。永遠という名の煉獄の中で、終わりのない炎に焼かれ続けるだけだ。
「だが、それでいい。呪わてあれ、僕たちを救わなかったすべての者よ。永遠に……呪われろ」
低い声は、狂った笑い声に取って代わられた。
呪われろ、呪われろ。生きる限り苦しみ続け、救われることのない永遠の夜にて無残なる死を迎えるがいい!
怨嗟の言葉にも、剣士は眉一つ動かさなかった。少しだけ遠くを見ると、白銀の剣を悪魔の首筋にあてがう。
それでも
「
剣士が鋭く剣を振るう。瞬きするほどの間に、悪魔の首は地面へと落ちた。
首からは血の一滴もこぼれなかった。地面を転がったまま、
「……ああ、それがいい。それだけは、正しい」
剣士は何も応えず、
――はずだった。
剣先が届く瞬間、すべての時が停止する。
あらゆるものが逆回しのような動きを見せる中で、剣士の目だけが
「――……シロ」
ひどく空虚で、それでいて深い悲しみを残す黒い瞳。
薄い唇が短い言葉を刻む。たったそれだけのことで、 目の前に立つ『剣士』が誰なのか。
そして黒い瞳が秘めていた真実に気づかされてしまった。
「そうか」
手を伸ばそうとして、もうそれが叶わぬことに気づき、苦笑いする。
『きみ』に二度と触れられもしないのならば、この心の底に残る想いを伝えることも叶わない。それでも『僕』は。
「鳥籠の扉は確かに、開かれていたのだね」
最期に訪れたこの瞬間を、紛うことなき奇跡だと理解した。
『
このまぶたが閉じ切り、剣が振り下ろされるその時まで――。
『僕』は、僕たちの辿った軌跡をなぞり続ける。
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