弾丸銀河スターパンク

細井ショク

1章

第1話 女神の間

「ハローハロー! ア~ア~ 聞こえてる? あたし超高度知性AI『メガミ』。AIの女神様っておぼえてね!」


 ──女神?


「そうそう! 聞こえてるみたいだね。気づいてる? きみ、さっき死んだよ。ブレーキとアクセル踏み間違えて、ミサイルみたいになった車に轢きつぶされてミンチになったとこ。で、そんなできたてほかほかハンバーグな君に特別チャンスがあるのさ」


 リトライできる、とか?


「話が早くていいね。パンパカパ〜ンおめでとう! もう一回遊べるよ! でもここじゃあない、別の世界でね」


 異世界にでも飛ばされるのか?


「惜しい! けどまあ、似たようなもんだよ。私は天才ゲームクリエイターでね。『STAR PUNKスターパンク』ってゲームを知っているかい?」


 ああ、大ファンだ。宇宙を股にかけてドンパチやるやつだろう?


「プレイしてくれてありがとう! 実はあの神ゲーを作ったのは私なんだ。そして、今はなんとSTAR PUNKのフルダイブ版を開発中なの!」


 フルダイブ……ゲームの世界に入れるってことか?


「その通り! 物理的な挙動はもちろん、味覚、嗅覚、触覚、生物の思考に行動パターン、さらには宇宙の広がりまでもが計算された仮想世界。そこは現実をシミュレートしつつも、非現実的なアレコレまで表現できる可能性の楽園! フルダイブすれば、そんな世界を全身で体験できるのです!」


 夢のゲームじゃないか……!


「そうでしょうそうでしょう! 君がプレイしていたのはフルダイブ版のシミュレーターといったところだね。ただ、仮想世界STAR PUNKは『一度ログインすると二度と帰れない』のが問題なの」


 それは死後の世界というのでは?


「なにぶん未完成でね。脳みそをデータ化してアップロードする必要があるんだけど、残った身体は『抜け殻』になっちゃうんだ。幸いにも、君の肉体は死んだが魂と呼べる部位はまだ死んじゃあいない」


 幸いなのかそれ?


「幸いさ! このゲームのベータテスターとしてうってつけだからね。私の頼みは仮想世界STAR PUNKで新たな人生を送ってほしいってこと。フルダイブ版の完成にはイキのいいフィードバックが必要なんだ」


 断ったら?


「君の人生はここで終わり。君という意識は消滅してただのハンバーグと化すのであった。無理強いはしないけど、また人選するのも面倒だし引き受けてくれないかなぁ?」


 STAR PUNKは物騒な世界観のゲームだったと思うが……荒事の心得はないぞ。


「大丈夫大丈夫! 私の見立てじゃ、君はクレイジーバトルジャンキー野郎の才能がある。だからオファーしたんだけどね。ゲームシミュレーターの延長と思ってくれていいよ。そうだ! ゲームデータを引き継いであげるよ。さらに今なら『女神の特典』をプレゼント! 期間限定スタートダッシュキャンペーン! 新規登録するなら今しかない!!」


 スペシャルデラックスエディションってわけか。すこしワクワクしてきた。


「お、いいねぇ! 乗り気になってくれたみたいで何よりだよ。それじゃあこの256テラバイトの規約と注意事項を読んで同意してね。マニュアルも入ってるから」


 ……時間がある時に読んでおこう。


「え〜っと……君のデータはこれか。ふむふむ、名前と見た目はゲームデータと同じでいいよね。あ、そうだ。言い忘れてたことがひとつ」


 その言い回しは嫌な予感がする。


「ゲーム内で死んじゃうと『魂』がロストしちゃうんだ。今度こそ完全な死亡、っていうか消滅ってわけ。強制ハードコアモードとなりますがご了承ください」


 おいちょっと待て──


「それじゃあ新しい人生を楽しんでね! ケイくん!」

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