夜霞駅の白猫が教えてくれた、もう一つの未来

猫山りぃ

第1話:白猫のいるホーム

 夜霞駅の終電間際は、いつもどこかしんとしている。

 街灯の光は弱々しく、駅前のバスロータリーには人影ひとつない。冬の冷え込みが足音まで吸い込んでしまうようだった。


 そんな静けさの中、僕──佐倉湊は、ひとりホームへ降りていった。


 期末テストの追い込みで遅くなった帰り。眠気と疲れで視界がぼやける。

 スマホの時刻は23時58分。あと少しで日付が変わる。


 ――その瞬間だ。


 線路の向こう側、薄暗いホームのベンチに白い影が座っていた。

 最初は誰かが忘れていったバッグかと思った。でも、目が合った。


 金色の瞳をした白猫。


 白猫はまるで人間みたいに微動だにせず、じっとこっちを見ている。

 こんな時間に、こんな駅に、なんで猫が……?


 そう思った瞬間、白猫はすっと立ち上がり、ホームの端へ歩き出した。

 まるで「ついてこい」と言うみたいに、時々こちらを振り返ってくる。


 いやいや、ついてったらあかんやつやろ……と思いながらも、

 足は勝手に動いていた。


 白猫が止まったのは、ホームの端にある古びた立て看板の前。

 普段は広告が貼られているだけの場所。何百回もこの駅を使ってるのに、気にも留めたことはない。


 でも今日は違った。


 看板の表面が淡く光り、

 “もう一つの未来へ”

 と文字が浮かび上がった。


 「……は?」


 当然だけど、意味がわからない。これは夢なのか、それとも疲れすぎて幻覚でも見てるのか。


 白猫はこちらを振り返り、ひとつ、短く鳴いた。


 次の瞬間、光が弾け、僕の視界はまっしろになった。


 そして、意識が暗闇へ落ちていく直前、

 確かに白猫の声が聞こえた。


 ――「選んで。どの未来を、生きたいの?」

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