少女の時に夢見たキラキラを追いかけてみた

はるのさくら

第1話 プロローグ

 10月は秋だと思っていた。残暑という言葉か一番しっくりくる。

 そう思いながら柊木彩菜は木の陰に隠れていた。今年の10月で32歳。ずいぶん大人の仲間入りをしていると思う。

 小学1年生の時に開校100周年で埋めたタイムカプセルを開封すると、幼馴染の秋野花梨から連絡が来て行ってみた10月の日曜日。

「10月ってこんなに暑かったっけ?」

「記憶が美化されてるのかな?もっと涼しかったよね?」

「子供のころは半袖Tシャツ1枚で過ごしてた記憶ないわ」

 小学校を卒業して約20年の月日を感じさせない会話が聞こえる。 

 目立たないように、ひっそりと・・・

 連絡をくれた花梨の姿を探しながら気配を消して集団の後ろにたたずんでいた。

「綾奈、久しぶり」

 名前を呼ばれて振り向くとそこには幼馴染の花梨がいた。花梨と春野彩菜は高校まで一緒に通っていたが、大学に進学してからは成人式以来会っていなかった。たぶん、親友だった。SNSでしか連絡を取っていない今は何とも言えない関係。お互いに休みが合うことも合わせることもなく今に至っている。

 花梨の軽いウェーブのかかった栗色の、パッチリとした目、すらっと長い手足はまるで人形のようなスタイル。12年ぶりの再会だけど変わっていなかった。

「花梨、遅い~。誘ったのに来ないかと思ったよ~」

「ごめん、ごめん。思ったより道混んでて。これでも時間ピッタリなんだけどな」

「みんな早めに来てるからね」

「悠は来てないの?」

 悠はもう一人の幼馴染。家が近所の彩菜、花梨、悠は幼稚園に上がる前からの関係だった。彩菜と花梨が女子高に進学してしまったため高校からは別々になってしまった。思春期だったこともあり幼馴染と連絡を取ることを恥ずかしく感じた彩菜は高校以降の近況についてはあまり知らなかった。花梨は悠と時々連絡はしているみたいだがそこに入っていく勇気は彩菜には無かった。

「そう言えば悠、見かけてないかも。花梨、声かけたの?」

「もちろん!帰りに女子会したいじゃん」

「悠、女子じゃないけどね」

 変わらない幼馴染との会話をしているうちに当時の担任を中心にタイムカプセルを取り出すため土を掘り始めていた。タイムカプセルが姿を見せる。

 スマホで写真を撮ったり、動画を撮ったり・・・各々に記録を残している。

 花梨とともに土の中から出てきたタイムカプセルを記録に残す。

 歓声とともに開くタイムカプセル。

 同じ学び舎でともに過ごした級友たちと一緒に自分の入れた手紙を受け取る。

「彩菜は何書いたか覚えてる?25年後の自分に」

「うーん・・・覚えてない。花梨は?」

「私も!一緒だね」

 小学校に入学して、文字を覚えてすぐに25年後の自分に向けて書いた手紙。憧れのランドセル、教室での授業、楽しい遠足や運動会などの行事にあふれ、25年後の自分について考えることができなかった。悩んで悩んで書いたはずの手紙なのにまったく記憶にない。

 

 帰りに花梨と入ったカフェで25年前の自分からの手紙を開いた。

 二人とも静かに読んだ。

  

  25ねんご の あやな へ

 あやな は いま しょうがく 1ねんせいです。

 ほんを よむのが すきで、まいにち としょしつで ほんを かりて よんでいます。フリフリの おようふく もだいすきです。 でも フリフリの おようふく は ピアノの はっぴょうかい でしかきれません。

 いま、 おうちには ねこの きなこ がいます。あやな は きなこ が だいすきです。


 32さいになった あやな は だいすき に かこまれていますか?

きっとおとなな おねえさんになって、23さいで けっこんして 32さい には 

3にん こどもの おかあさんになっていると おもいます。

                      7さい の あやな より


 大人になったら大好きなものに囲まれて、大人な日常を過ごせると思っていた。

 大好きな小物、洋服、猫、落ち着いた大人に囲まれて大人になった私は仕事して、結婚して、素敵なパートナーとかわいい子供に囲まれて・・・キラキラした未来があると思っていた。

 

「はあ」

 花梨のため息で我に返った。

「花梨、どうした?」

「小1の私、未来を予言してて怖いわ。看護師になって、バリバリ仕事してるって・・・もうその通りよ。恋も遊びも見向きもせずに仕事仕事で、今」

 自虐気味に言ってはいるが、花梨は専門性の高い看護師の資格をいくつも取得し、毎年、学界でも発表をして何度か賞ももらっているらしい。

「で、彩菜は?」

「う・・・花梨とは真逆・・・かな」

「そっかそっか。綾奈らしく生きてたらそれでいいと思うよ。そろそろ病院で次の学会の資料まとめないと。また連絡するね」

 彩菜の歯切れの悪い返事に花梨は何かを察したようだった。幼馴染だからこそわかる空気感のようなものが存在していた。

「25年前の手紙で背中を押してくれるような・・・不思議な力があるかもね」

 そう言って花梨はカフェを出て行った。いたずらっ子のような笑顔の花梨。

 きっと、SNSで連絡は取るけど、会うのは10年後かもしれない。

 彩菜は25年前の自分からの手紙にモヤモヤとしながら自分もカフェを後にした。

 コーヒーの苦みがいつも以上に残っている。そんな感じがした。

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