追放された瞬間に前世の記憶が戻った ~あれ、この国、俺が作ったゲームの「滅亡確定のチュートリアル国」じゃん。逃げよ~

しゃくぼ

第1話:国外追放という名の「生存フラグ」

「宮廷魔導師リオン! 貴様のような無能は、我が国には不要だ!」


 王宮の謁見の間。

 大理石の床に響き渡るのは、この国の第一王子アレクの罵声だった。


「即刻、この国から出て行け! 国外追放だ!!」


 周囲を取り囲む貴族たちが、一斉にニタニタと下卑た笑みを浮かべる。

 あぁ、終わった。

 俺の人生、ここで終わりだ。

 魔導師としての地位も、名誉も、生活も――。


「で、殿下! どうかお慈悲を……!」


 俺はすがりつこうと前へ出た。

 その時だ。


「ええい、見苦しい!」


 ドガッッ!!


 近衛兵に突き飛ばされ、俺は勢いよく石床に頭を打ち付けた。

 視界が白く弾ける。

 脳髄に走る衝撃。


 ――ピロリン♪


 その瞬間、俺の脳内で何かが《インストール》された。


(……あ、れ?)


 痛みが引いていくと同時に、膨大な記憶が奔流となって押し寄せる。

 満員電車。激務。デスマーチ。

 そして、俺が血反吐を吐きながら仕様書を書いた、一本のゲーム。


 ――オープンワールドRPG『ファンタジー・クロニクル』。


 俺はバッと顔を上げた。

 目の前にいるテンプレ的なバカ王子。

 小悪党面の貴族たち。

 そして窓の外に見える、特徴的な双子の尖塔。


「……ここ、アグラン王国じゃねーか」


 間違いない。

 俺がメインプランナーとして設計した、ゲーム開始地点。

 通称『チュートリアル国』。


 そして、この国の設定は――


 【ゲーム開始から3日後、復活した『古の邪竜』のブレスによって地図ごと消滅する】


 生存ルート、未実装。

 救済措置、なし。

 プレイヤーに「この世界は過酷だ」と教えるためだけに存在する、全滅確定の「噛ませ犬国家」だ。


(待て。今、こいつ何て言った?)


 俺は王子を凝視した。

 王子は勝ち誇った顔で、もう一度告げる。


「耳が遠くなったか無能め! 『国外追放』だと言ったのだ!! 二度とこの国の土を踏めると思うな!」


 ……国外追放?

 この、あと72時間以内に更地になる「死の国」から?

 合法的に?

 強制的に?


 出て行っていいの!?


「っ……!!」


 俺は震えた。

 こみ上げる感情が抑えきれない。


 俺はスッと立ち上がると、埃を払うのも忘れて王子の元へ駆け寄った。

 そして、その両手をガシィィィッ!! と固く握りしめる。


「ありがとうございまぁぁぁすっ!!!」


「は……?」


 王子の目が点になる。

 周囲の貴族たちの嘲笑も凍りついた。


 だが、俺の歓喜は止まらない。

 俺は王子の手をブンブンと上下に振り回しながら、満面の笑みで叫んだ。


「いやぁ、まさか追放して頂けるとは! 殿下は命の恩人です! いやー危なかった、このまま雇われてたら死ぬところでした! まさに英断! 圧倒的慧眼!」


「き、貴様、気でも触れたか……?」


「おっと、感動している場合じゃないですね! 『即刻』出て行けとのことでしたので、お言葉に甘えて秒で失礼します! いやー、処刑じゃなくてよかった! 追放最高! 国外万歳!!」


 俺は王子の手をパッと離すと、踵を返した。

 目指すは出口。

 これまでの人生への未練? あるわけないだろ、ここは沈没船だ!


「あ、荷物は面倒なんで全部置いていきます! 退職金代わりに寄付しますんで!」


「は、おい、待て……」


「では!!」


 ダッッッッッ!!!!


 俺は身体強化魔法を脚部にフルチャージ。

 宮廷魔導師としての全魔力を「逃走」に振った。


 ドォォォォン!!


 ソニックブームのような爆音を残し、俺は謁見の間の扉をぶち破って廊下へと飛び出した。

 背後で「な、なんだあの速さは!?」と誰かが叫んでいるが、知ったことか。


 俺の記憶が正しければ、あと数時間で《邪竜復活の予兆イベント》が始まる。

 もたもたしている暇はない。

 RTA(リアルタイムアタック)勢の走りを今こそ見せてやる!


 ◇


 三十分後。

 俺は国境へ続く街道を、馬車すら追い抜く速度で爆走していた。


(悪いな、アグラン王国のNPCたちよ……)


 すれ違う能天気な行商人や兵士たちを横目に、俺は心の中で手を合わせる。


(お前たちの生存フラグは、開発段階で俺がへし折った。仕様(スペック)だ。諦めてくれ)


 その時だった。


 ズズズズズ……。


 空気が重く震え、王都の方角の空が、毒々しい紫色に染まり始めた。

 不気味な雷光が走り、雲が渦を巻く。


「な、なんだあの空は!?」

「おい見ろ、王城の上が……!」


 周囲の人々が足を止め、呆然と空を見上げる。


 始まった。

 あれは『古の邪竜』が目覚める前兆。

 第一章の強制終了イベント、通称「滅びのカウントダウン」の開始合図だ。


 俺は走る速度を緩めず、背後の紫色の空へ向かってニヤリと笑いかけた。


「あーあ、イベントフラグ立っちゃったよ。あと10時間でこの国は地図から消えるな」


 ざまぁみろ、バカ王子。

 お前が追放してくれたおかげで、俺だけは「イベント圏外」だ。


「さーて、新エリア解放のお時間だ! あばよ、チュートリアル!」


 俺はさらに加速した。

 滅びゆく国を背に、俺の第二の人生(サバイバル)が、最高速度で幕を開けた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あとがき

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