能力至上主義の世界で万能魔法を使って生きよっか?

天明ほのか

第1話 平行世界へ

「まさか、こんな小娘に追い詰められるとはっ...!!」


目の前に在る異形の存在は息絶え絶えになりながらも言葉を紡ぎ、最期の時を過ごそうとしている。長きに渡る魔王の恐怖もこれでやっと終わりを告げる。私も早く家に帰って...いや、しばらく一人で過ごしたいな。


「だが良いのか?私を倒したお前は皆々から畏敬の念を抱かれるか、恐怖の対象にしかならないだろう...?」


そんなこと私が一番良く分かっている。平和だった時でも周りからは浮いた血で染めたような色の髪と膨大な魔力による長寿で奇異の目で見られ、同じ穴のむじなである家族からもまともな扱いは受けていなかったのだから。


「うるさい。」


だからこれが終われば誰も目に付かない場所でゆっくり過ごすつもりだ。本音を言えばもっと他人と仲良くして楽しく生きていたかった。いや、普通の家庭に生まれて幸せに暮らしたかった。でもそれは叶わない。


「終わり―――っ!!」


最後の一撃を叩き込もうとした時、突如現れた謎の光が全身を包み込んだ。あまりに唐突で予想だにしていないことだったので瀕死の魔王の悪あがきと思い、最後の一撃を中断し即座に魔法の結界を張り身構える。


目が眩むような激しい光に耐えること数秒、私は知らない場所に立っていた。私は結界を解き、情報把握のために周囲を観察することにした。


石造りの壁と柱には綺麗な彫刻が施され天井は高く、長椅子が綺麗に配置されている。そして背後を振り返ると夕焼けの光がステンドグラスに差し込み、5mはありそうな巨大な女神像を神々しく照らしていた。


「どこかな、ここ?」


とりあえず、どこかの教会ということは分かったが明らかに先程まで魔王と戦っていた場所ではないので夢なのではないかと頬を軽く抓ってみる。


「痛い。」


その時だった―――石像が淡く光りどこからともなく声が聞こえてきたのは。


「やっと見つけた。まさかこんなところにいるなんて。」


「あ、あなたは一体?」


「私は月織神。そして貴女はこの世界の招かれざる客...いいえ、異物とったところかしら。」


その言葉を聞いて私は呼吸が止まってしまった。周囲の反応から私が異物だということは理解していると思っていた。でもまさか神から直接言われるなんて考えもしないことだった。私の生い立ちからして一族の罪を罰しにきたのだろうと身構えてしまう。


「私を、罰しにきたのですか?」


「ああ、あれは貴女の家なのね。一瞬見えたけど、あんなことをしていていたら貴女みたいなかわいそうな子が生まれてくるのも当然ね。私が言いたいのは、この世界にとっての話よ。ここは貴女のいた世界にとっては平行世界、本来貴女は存在してはいけないのよ?」


そうして神は語ってくれた。他の世界での出来事と似たようなことが立て続けに起きると世界の境界が曖昧になり一瞬繋がってしまうこと。そしてその穴から時々異物がきてしまうということ。それが今私がここに在る理由だということに。


「本当の世界は一つしかない。だから、一つに戻ろうと力が働く。本来ならここの世界を保つために貴女という存在を消さなければならないのだけれど...そうすれば貴女のいた世界に貴女は存在しなかったことになり、歴史は修正される。」


そんなことすれば私が瀕死まで追い詰めた魔王やその眷属がどうなるか。今よりもっと悲惨なことになるのが目に見えている。何より私が研究した魔法の詠唱構造が消えてしまうのが惜しくて仕方がない。


「待って私はまだ...!!」


「話は終わっていないわ。貴女の存在を消すことによって起きる歴史の歪みがどれほどになるか計り知れない。だから、貴女がこの世界で生きることを許可するわ。」


「やった!」


「ただし、元の世界で使っていた名前を捨てることにしなさい。代わりに名前を与えるわ。そうね...貴女の人生と家の名前を借りて、七桜光莉(ななおひかり)と致しましょう。」


桜、これはきっと一族の髪色から取ったのだろう。元の姓の方は今更ながら忌々しくて仕方がない。そして光、これに一体どんな期待を込めているのか、それは今は分からない。ただあの時願ったように楽しい暮らしが出来るかもしれないという期待が高まってくる。


「月織神様、ありがとうございます!」


「ええ、どういたしまして。でも感謝なら運命神にすることね。それじゃ――」


「待ってください!最後にあなたの神名を教えてください。」


「ルナリア・ル・エルランデ」


その名を聞いて思わず疑問が浮かんできた。間違いがないように慎重に名前を翻訳していくがやっぱりだ。


「...え?”神による月の支配は終わり”ってどういうことですか?」


私の声も虚しく、ルナリアに届くはずだった声は教会の静寂に消えるだけだった。

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