彼は誰時

彼は誰時

もうすぐ、朝が来る。

朝日が空と海を、淡い紫色に染めていくのを、僕は見る。


この向こうに行ける鳥は、自由なのか。

鳥は自由の象徴だ、と人は言う。

でも、鳥でさえ、季節によって

行き先を本能で決められていて、

そこから外れることは、決して出来ない。

だから、鳥も不自由だ。


ある問いを、聞いたことがある。

楽園に辿り着いた者が、いたとして。

楽園に辿り着いた者は、

楽園から出る理由が無くなる。

誰も、楽園について知ることが出来ないのに、

どうして楽園を証明することが出来るのか。


本当に自由な場所が、

この水平線の向こうにあったとしたら、

僕はきっと、離れたくないと思うだろう。

だって、自由だもの。

そこから離れる理由がない。


でも、それでも、僕は不自由だ。

なんせ行き先を決められているのだから。

この空には、逆らえない流れがある。


群れの仲間が見える。

僕も、すぐ行かなくては。

この海の向こうへと。

どこかにある、楽園へと。


でも、いつか、いつか、

僕は必ず、戻って来る。

それは1年後かもしれないし、

10年後かもしれない。

でも、そう遠くはない。


人のように群れて飛んで、

人のように沢山学んで、

人のように泣いて、笑って、喧嘩して、

人のように強くなって帰ってくる。


もう時間だ、行かなければ。


彼の楽土へ行かん。


〖彼は誰時〗


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