第2話 こまりはおしゃれがしたい

 あるひのこと。

「それじゃあこまり、ちゃんと おるすばんしててね。」

 けいたくんが ぼくのあたまを そっとなでる。どうやら 「おかあさん」と「おとうさん」と おでかけするみたいだ。

 けいたくんは すてきなくろいおぼうしに かっこいいジャケットと はんズボン。「デパート」というところに いくんだって。

 けいたくんたちをみおくったあと ぼくはつぶやいた。

「おしゃれ……ぼくもしてみたいな。」

 なんだかきゅうに はだかでいることが はずかしくなってきた。でも、おしゃれって なんのためにするんだろう? ひとに みせるため? それとも じぶんのため?

 ケージのめのまえには ニンゲンたちがつかう すがたみがある。ぼくは ぼくのからだをみた。けなみはつやつや、きょうもばっちりだ。それでも すこしさみしい。

「ぼくも……すてきなうわぎと おぼうしがほしいな。」

 すがたみをじっとみていると ぼくのうしろになにか かんばんがあることに きがついた。こんなもの、ケージのなかにあったっけ?

 ぼくはふりかえり、かんばんを ながめた。「したてや もーる」とかいてある。でも かんばんが あるだけで おみせはどこにもない。

「うーん? どこにあるんだろう?」

 かんばんを みていると なんだかからだが うずうずしてきた。ハムスターの ほんのうなのかな。ぼくは いっしんふらんに かんばんのしたを ほりはじめた。

「あれ? あれれ?」

 そろそろケージのゆかについても いいころなのに きょうはどんどん ほりすすめられる。おがくずは、とちゅうからなくなって ちゃいろいつちが あらわれた。すこししめったにおいと かんしょくは どこかなつかしかった。

 あなはさらに ふかくなっていく。どこまで つづくんだろう?

「おや、かわいいおきゃくさんだ! 『したてや もーる』へ ようこそ!」

「わ!」

 きゅうにあながひろがって そこには ぼくににた けだまがたっていた。

「あなたは?」

「わたしは もぐらのしたてや モール。かんばんを だしてよかった! おきゃくさんがこなくて たいくつしていたものでね。」

 モールさんは ちいさなめがねをかけていて ぼくよりずっと としうえにみえた。あたりをみわたすと かべいちめんに たながあって ちいさなおぼうしや おしゃれなおようふくが ならべられていた。

「ぼくのなまえはこまりです。ここは?」

「ここは ちかでいちばん おしゃれなブティック! わたしがつくった ふくやぼうしを うっているんです。」

「ぼくにも うってくれますか。」

「もちろんですとも。こんかいは はじめてなので おだいはけっこう! どれを しちゃくされますか?」

 ぼくは おみせのなかを みわたした。もぐらサイズの すがたみのよこにある たなのいちばんうえ! ぴかぴかのシルクハットが ひときわかがやいてみえた。つやつやで、しんしで、おもいっきりおしゃれなくろいおぼうし! かたちはちがうけど いろはけいたくんと おそろいだ。

「あれ、かぶってみたいです!」

「おやおや こまりさん! あれをきにいるとは おめがたかい!」

 モールさんは すこしせのびをして おぼうしをとってくれた。てわたされると なんだかこころがぽかぽかして あったかいきもちになった。ケージのなかの たからもののボールを てにしたときみたいに ウキウキして おどりだしたくなる。

「ささ、かぶってごらんなさい! これはわたしの いちばんおきにいりの ぼうしなんですよ。」

 ぼくは シルクハットをかぶって すがたみをみた。

「これがぼく……? ちょっと、ううん、かなり、いいかんじかも……!」

 はずかしいけど きまってるぼくのすがたに とってもほれぼれした。こんなおとこまえ みんなほうっておくわけがない!

「よくおにあいですよ! これがうれるなんて うれしいなあ。これだけ よろこんでくれるおきゃくさんも ひさしぶりだ。ほんとうは あげるしなものは ひとつだけにしようと おもっていたのですが、あなたのセンスを きにいりました! そのぼうしににあう おようふくを つくってさしあげましょう!」

 モールさんは いそいでぼくのサイズをはかると まよいのないてさばきで あかいきじを はさみできっていった。そうして びっくりするはやさで ぬっていくと りっぱなチョッキができあがった。

「さあ、うでをとおして!」

 きてみると サイズはぴったりで とてもきごこちがよかった。すべすべしていて ぴっかぴか!

「わあ、かっこいい! てさきが きようなんですね。」

「それだけが とりえですから。おまけで これもつけてあげましょう!」

 モールさんは おくからステッキをもってきて ぼくにわたしてくれた。

「わわ……! ぼく、まるでしんしみたい! ゆめみたいだ!」

「とっても すてきですよ。わたしのめに くるいはなかった!」

「ほんとうに おだいは いらないんですか。」

「これからも ごひいきにしてくれたら ただでさしあげますよ。」

「かならず またきます!」

 ぼくは うわついたきもちで なんどもモールさんにてをふって おみせからケージにもどった。


 ケージにもどると ぼくはすがたみのまえで ポーズをきめた。とっても かっこよくて すてきなぼく!

「こまり どこでそんなもの てにいれたの。」

 アイシャがへやにはいってきて ぼくをみて あきれたこえをだした。すなおじゃないなあ。

「『したてや もーる』さんだよ。ぼく、かっこいいでしょ?」

「ニンゲンのまねっこ? あたしは いつものアンタのほうが すきだけどね。」

 アイシャは ぼくのすがたを じっとみつめた。ぼくは すこしおちこんでしまった。

「そうかな……」

 おしゃれって なんだろう。だれが きめるんだろう。だれのために きるのかな。みとめられたいから きるのかな。ハムスターが ふくをきてたら おかしいのかな。みんながおかしいっていったら おかしいのかな?

「へんかな……へんかも……でも、ぼくは ぼくのために このふくがきたいんだ。ぼくは せかいでいちばん かっこいいんだ!」

 アイシャはびっくりして めをぱちぱちさせた。

「いじわるいって ごめんなさい。そのぼうしも にあってるわよ。」

「――こまり!」

 そのとき ドアがあいて けいたくんがかえってきた。

「ちゃんと おるすばんできた?」

「…………!」

 ぼくは なんだかきゅうに はずかしくなって すぐにふくをぬぐと ケージのゆかに かくした。

「ほら、やっぱり はずかしいんじゃない。」

 アイシャが ふふんとわらう。くやしいけど、けいたくんにみられるとおもうと なんだかてれちゃったんだ。みてもらいたいけど みてほしくない。ほめられなかったら かなしくなっちゃう。

「こまり? なんでかくれてるの? へんなこまり。ごはんだよ!」

 けいたくんが てをさしだしてくる。ぼくはてれるしはずかしいしで、どうしていいか わからなかった。

「ガブッ!」

「いたい! こら、こまりー! かんだら だめでしょ!」

 けいたくんに しかられてしまった。アイシャをみると、

「やれやれ。」

 と めをほそめて わらっていた。

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