VRMMOでのバナナの日記

@Rii030akinohara

第1話

こんにちは。私は、花守真昼。

あ、ユーザーネームは「なのは」だよ。


……って、私、誰に話しかけてるんだろ。

まあいいや。


今の私?

バナナです。森の中で、地面に転がってます。


ほんっとうに、どうしてこうなったの!?


◈◈◈◈◈◈◈


「真昼、新しく発売されたシルフェ・オンライン、もう買った?」


休み時間、結秋ゆあが声をかけてくる。

保育園のころからの親友で、中学に上がっても同じクラス。

やっぱり私たちは、親友なんだと思う。


「買ったよ。今日からキャラメイクだよね。ユーザーネームも決めたんだ」

「早いね。私もだけど。あ、早く帰ってキャラメイク始めないと」

「そうだね」


ちょうど下校の時間になり、私たちは教室を出て家に向かった。


「お母さん! 準備できてる!?」

「できてるわよ、真昼」

「私のは?」

「はいはい、ありますよ、夜宵やよい


私と妹は、ほとんど同時に家に帰ってきた。

一刻も早くゲームを始めたくて、事前にお母さんにお願いして準備をしてもらっていた。


お母さんは仕事をしているらしいけど、どんな仕事かは知らない。

でも、いつも家にいることだけはわかっている。

――それに、私たちの家族は全員ゲーム好きだ。


「部屋でやってね」


そう言うと、お母さんはすぐに自分の部屋へ戻ってしまった。

まあ、早く遊びたいからだろう。うちの家は、ゲームのことになると、はめが少々外れる。


「私たちも早く行こ、お姉ちゃん」


妹に急かされながら部屋に入り、すぐに機械を起動させる。

シルフェ・オンラインはVRMMOで、カプセル型の装置に入って遊ぶタイプのゲームだ。

世界初の、五感で体験できるゲームでもある。


とても高かったけれど、うちの家はゲーム好き+幸運(悪運?)なので、運よく全員分を手に入れることができた。


「こんにちは。シルフェ・オンラインへようこそ。早速、ユーザーネームをお願いします。」


機械に入ると、私は何もない空間に立っていた。

すると、どこからか中世風の声が響き、目の前に透明なパネルが現れる。


すごい。仮想空間だから、大体なんでもできるんだ。


――ま、なのはっと。


パネルを操作し、「なのは」と入力する。


「なのは、ですね。それでは、キャラメイクに移ります。」

「うわっ!」


急に画面が切り替わり、思わず声が出た。


キャラメイクの内容は、だいたい決めてある。

種族の選択があったけれど、深く考えずに人間を選んで次へ進む。

最初は種族差があまりないって聞いているし、人間は器用貧乏って感じだ。


ユーザーネームの由来もあって、髪は金髪。目の色も同じにする。

顔は、ほとんどいじらない。

自分で言うのもなんだけど、私はかわいいからね。

(。・ω´・。)ドヤッ


身長はいじると慣れないらしいので、そのまま。

あとで伸びても適用されるらしい。よかった。成長期だから。


「設定が完了しました。」

「わかりました。では、スキルを選択してください。」


その声と同時に、目の前のパネルに、ずらりとスキルが並んだ。


《風魔法》《植物魔法》は絶対に取りたい。

あとは……《MP自然回復》《HP自然回復》。

それから武器系。剣でいいかな。《片手剣》。


スキルは、五つまで選ぶことができる。

でも、《MP自然回復》と《HP自然回復》がないと、回復はポーション頼みになるらしい。

つまり、この二つで枠は確定。残り三枠をどう使うか、ってわけだ。


「ステータスポイントを割り振ってください。」


スキルを選び終えると、次はステータスだ。

画面を見ながら、慎重に決めていく。


これが、私の初期ステータス。


――


プレイヤー名:なのは

レベル:1

経験値:0 / 100

所持金:0

HP:100 / 100

MP:300 / 300

攻撃力:30

防御力:30

敏捷性:30

ステータスポイント:0


スキル:

《風魔法》

《植物魔法》

《MP自然回復・小》

《HP自然回復・小》

《片手剣》


――


MPは少し多めに振って、HPは初期値のまま。

残りは、攻撃力・防御力・敏捷性に均等配分。


ステータスポイントは、一ポイントで

攻撃力・防御力・敏捷性が5上昇。

HPとMPは10上がるらしい。


「できましたか? では、チュートリアルで感覚をつかんでください。応援しています。」


その声に背中を押されるようにして――

気づいたときには、私は平原に立っていた。


「チュートリアルを始めます。」


……え。

今の雰囲気、別の人が担当する流れじゃなかった?


「必ずしも、そうとは限りません。」

「え、心読んだ!?」

「いいえ。顔に、はっきり出ていましたので。」


え、表情まで読めるの?AI。

すごい……。


「では、まず最初に、走ってみてください。」


何事もなかったかのように、声は先へ進む。


爽快感、ありそう!

私は思いきり、走り出した。


――と、その瞬間。


草むらから顔を出していた、黄色いもの。

バナナ。


「えっ――」


滑って、転んだ。


そして、物語は冒頭へ戻る。


◈◈◈◈◈◈◈


……いや、悪運にもほどがある!


動けない。

身動き、取れない。

視点も、まったく動かせない。


というわけで、

ただ時間だけが過ぎていくゲームが始まった。


いや、ふざけんな!?


一人で心の中ツッコミ大会を開催していた、そのとき。

ふと、嫌な気配がした。


……ここ、森のど真ん中だよね。

ゲームの中ってことは――

モンスター、いるよね。


そう気づいたときには、もう遅かった。


視界の端に現れたのは、ゴリラ型のモンスター。

次の瞬間、私は――食べられた。


……痛覚設定、致命傷は感じないようにしてて本当によかった。


まあ、ゲームだし。

いくら死んでも、リスポーンできる。

たぶん、バグでこんなことになったんだろう。


ほら、目を開ければ――

そこは、最初の町。


……では、なかった。


まだ、森の中にいる。


……ふざけんな!


そのまま、

食べられて、

死んで、

リスポーンして。


それを何度も繰り返していると――

急に、通知音が鳴った。


【おめでとうございます。称号デスループの常連を獲得しました。】


……ふざけんな!!


本日、何度目かわからないツッコミを入れる。

もう、正直疲れた。


《デスループの常連》

獲得条件:短期間に何度も死亡する

効果:死亡時のデスペナルティ無効化/リスポーンまでの時間短縮


……しかも、効果がわりと優秀なのが、さらに腹立つ。


このゲームでは、死亡するとデスペナルティが発生する。

六時間のあいだ、すべてのステータスが半減。

さらに、所持金も半分没収。


まあ、まだ始まりの町にすら行けてないから、所持金はゼロなんだけど。


……でもさ。

称号の名前、もうちょっとどうにかならなかったの?


ふと、現実の時間を確認する。

もう、夕飯の時間だ。


私はログアウトのボタンを押し、ゲームの世界から意識を切り離した。


これからのシルオン――

正式名称、シルフェ・オンラインは、どう考えても波乱の予感しかしない。


でも同時に。

なぜか、少しだけ楽しそうだとも思っている自分がいた。

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