彼女を守るために変身したら、最強の魔法少女(幼女)になった件 ~未来から来た娘のために、カップルで世界を救います~

希(のぞむ)と紡(つむぐ)

第1話 彼女を守るために変身したら、世界一可愛い幼女になってしまった件

「俺の彼女は、世界一可愛い」


 もしこれが夢なら、どうか覚めないでほしい。俺――相沢湊あいざわ みなとは、今、人生最大の幸福と緊張の中にいた。


 隣を歩くのは、学校一の美少女・如月玲奈きさらぎ れな。誰もが振り返る「高嶺の花」だったはずの彼女と、まさか恋人になれるなんて。そして、念願の初デートに漕ぎ着けるなんて。


 時折触れる肩や、ふわりと香るシャンプーの匂いに、俺の思考回路はショート寸前だ。


「――ねえ、みなとくん。次、あのアトラクション乗ってみない?」


 日曜日の遊園地。甘いチュロスの香りと、家族連れやカップルの喧噪が混ざり合う中、隣を歩く彼女――如月玲奈きさらぎ れなが、控えめに俺のシャツの袖を引いた。


 上目遣いのその表情が可愛すぎて、俺、相沢湊あいざわ みなとの心拍数は朝から限界を突破しっぱなしだ。


「あ、ああ。いいよ。玲奈が行きたいなら」


「ふふ、よかった。……あのね、湊くんとこうしてデートできるの、すごく楽しみにしてたんだ」


 はにかむ彼女を見て、俺は天を仰ぎたくなる。付き合って一ヶ月。念願の初デート。俺たちは幸せの絶頂にいる――はずだった。


 ドォォォォォォォン!!


 突如、爆音と共に地面が揺れた。悲鳴。逃げ惑う人々。


 舞い上がる粉塵の向こうから現れたのは、廃材とヘドロを混ぜ合わせたような、巨大な「怪人」だった。


「な、なに……あれ……」


「玲奈、下がってろ!」


 俺はとっさに玲奈を背にかばった。だが、相手はビルほどの高さがある化け物だ。ただの男子高校生である俺にできることなんて、精々彼女の盾になって死ぬことくらいしかない。


 怪人が腕を振り上げる。瓦礫が雨のように降り注ぐ。


(くそっ、何だよこれ……! 俺は、玲奈を守りたいのに!)


『――その願い、聞き届けたよ!』


 頭の中に、直接響くような高い声がした。視界の端に、白くて丸い、妙な浮遊物体(マスコット?)が現れる。


『君には素質がある! 愛する人を守るための、崇高な魂の輝きが見えるよ!』


「誰だか知らねえが、玲奈を助けられるなら何でもいい! 力を貸せぇぇ!」


『契約成立! マジカル・イグニッション!』


 俺の身体が、強烈なピンク色の光に包まれた。


 瞬間、全身に走る違和感。熱い力が湧き上がると同時に、骨格が、筋肉が、ギュギュッと圧縮されていくような奇妙な感覚。視線がガクンと低くなり、世界が急に巨大化したように錯覚する。


「……え?」


 光が収束する。俺は自分の手を見た。ゴツゴツしていたはずの俺の手は、白くて小さくて、もちもちした「クリームパン」のような愛らしい手になっていた。


 視線を下ろす。そこには、フリルたっぷりのピンクのスカートと、大きなリボンがついた胸元(平坦)。そして、白いニーハイソックスに包まれた、折れそうに細い脚。足元には、キラキラしたエナメルのブーツが輝いていた。


「……は?」


 俺の口から出たのは、いつもの低い声ではなく、鈴を転がすような可憐なソプラノボイスだった。


 目の前には、腰を抜かしたままポカンと口を開けている玲奈がいる。彼女の視線は、俺の顔ではなく、俺の頭上のリボンあたりに向けられていた。


「え、あの……可愛い……女の子……?」


「ち、違うんだ玲奈! 俺だ! 湊だ!」


 必死に弁解しようとしたが、俺の口調と声質のアンバランスさが、事態をより混沌とさせる。俺は、魔法少女ロリになっていた。


「おい妖精! どうなってんだこれぇぇぇ!?」


『あれぇ? 君、男の子だったの? システムのエラーかなぁ。ドンマイ!』


「ふざけんな!」


 ――こうして、俺と彼女の、波乱に満ちたヒーロー生活が幕を開けたのだった。

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彼女を守るために変身したら、最強の魔法少女(幼女)になった件 ~未来から来た娘のために、カップルで世界を救います~ 希(のぞむ)と紡(つむぐ) @NOZOMU_TO_TUMUGU

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